247.オレだけ酢豚(2)

「主に貞操の面で……あとは自分で調べろよ」


 肉の対価の範囲はここまでだ。そう告げた情報屋に、オレは笑顔で金貨入りの革袋を積んだ。


「お仕事、しない?」


「……くくっ、そう言うと思ったぜ」


 音を立ててハイタッチして、オレ達は笑う。もうひとつの形式美というか、これはお約束のやり取りなんだ。レイルはすでに情報を手元に持ってて、売りたい。オレはすぐに情報が欲しい。そこで金のやり取りが発生するのは友情に相応しくないって? 綺麗ごとじゃご飯食べられないんだよ。


 レイルは自分の組織の連中にご飯を食べさせ、宿を提供し、衣服だって揃えてやらなきゃならない。どれだけ金がかかるか、想像できるだろ。孤児院の運営並みに経費がかかる。巨大企業の社長と考えればわかりやすいかも。たとえ従兄弟でも仲良しの親友でも、仕事の対価はきちんと支払う。


 友情が壊れる原因のひとつが金、残りは恋愛。幸いにして恋愛は絡まなかったから、金の問題はきっちりする。恩人で友人のレイルに報いるのは当然だし、彼もオレが金払いよければ情報を持ってきやすいだろう? 目の前で困ってるオレが彼に金払わないと、友情と仕事の割り切りの間で苦しむのはレイルだ。


 まあ……そんな甘い奴じゃないと思うけどね。オレはレイルと友情を切らさないために、仕事にはきっちり報酬を出す。そこで値切るバカもしない。


 将来、金に困ったら「くれ」って強請るかもしれないけどさ。借りたら貸さなきゃならないからな。それくらいなら「くれ」って言う。本当に困ったときは、プライドが役に立たないのを知ってるからだ。


「情報は手元にあるが……紙か? 言葉か」


「言葉」


 直接貰う。受け取った証拠は残さない。もしもだが、外に漏れたらリアムの評判に傷がつくかもしれない。貞操関連って、そういう意味に受け取れる。オレの即答に、レイルの口角が持ち上がった。答えはお気に召したみたいだな。


「ちょっとこっち来い」


 素直に立ち上がったが、思い出して振り返る。もちろん遅かった。机の皿に残っていたオレの酢豚は、ジークムンド達や聖獣の腹の中だ。明日の酢豚減らすぞ。睨みつけて、でももう野菜が残ってるだけの皿から、人参に似た青い野菜を口に放り込んだ。


「スノー、お願いがある。酸っぱい果物探して」


『主様、僕は酸っぱいの嫌いです』


「料理に使うから。ブラウが知ってる、頼むな」


 パイナップルをどう説明したらいいか。外見を説明しても、おそらく色も形も違う気がする。酸っぱいのを数種類集めれば、使える果物もあるだろう。ブラウが『ぱいんあっぷるぅ』と叫びながら通り過ぎ、スノーに尻尾を掴まれた。協力して頑張ってくれ。オレは学校給食の酢豚に入ってたパイナップル好きだったから。

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