190.噂の一人歩きどころか成長?(3)

「よし。荷物しまうよ」


 軽装になった彼らを見回して声をかけ、巨大風呂敷を風の魔法で包んでいく。結び方はおばあちゃんが使っていた……名前わかんないや。とにかく解けないようにしっかり縛った。


 持ち上げることなく、収納の口を触れさせてしまう。見慣れた傭兵達は気にしないが、ジャッキーは目を見開く。こういう新鮮な反応、久しぶりだった。最近はオレが何かやらかしても「キヨ(ボス)だからな」で片付けられてきた。


「砦を放棄して、出発進行!!」


 砦を占拠したときに、南の兵士を逃した門からぞろぞろと傭兵が出ていく。寄ってきたユハが、ぼそっと疑問を口にした。


「放棄していいの?」


 上司に何か言われるんじゃないか。その心配はもっともだ。特に兵士として勤めていたユハらしい質問だった。傭兵は拠点を死守する感覚が薄いから。


「すぐにシフェルが兵を派遣する。それに、ここを守る必要がなくなったんだ。奪われても取り返せばいいんだもん」


 一度入り込んだ場所だから、次は簡単に転移魔法が使えた。有志を募って、中に飛び込んで戦うトロイの木馬作戦が使えるのだ。相手に誘い込んでもらう必要すらないのは、最強だろう。


 頷くユハの目に「ああ、規格外だから」って書いてある。もう文句言う気にもならんよ。実際チートで規格外だからね。そこは否定しない。生温い目を向けられながら、オレはヒジリの背で揺られる。


『ご主人様、僕は馬なので……その』


 乗り物なら僕の役目じゃない? そう訴える栗毛の馬に、少し考えてにっこり笑った。


「マロンに乗るよ」


『主殿は、我より金馬が良いと申されるか!』


 むっとした口調のヒジリの鼻筋を撫でて、落ち着くよう促した。少しトーンダウンしたところに、お願い事をする。


「実はヒジリにしか頼めないお願いがある。手の空いてる聖獣達を指揮して、周辺に危険がないか警護して欲しいんだ。こんなこと、オレの名前をもつヒジリにしか頼めない」


『よ、よかろう』


 わかりやすくご機嫌な尻尾を立てて、影の中に飛び込んだ。黒豹を見送るオレの背を咥え、マロンは小柄な子供を空中に投げ飛ばす。空中で一回転してマロンの背に着地しながら、汗がぶわっと噴き出した。


 焦るから、そういうのやめて欲しい。注意する前に、傭兵達が手を叩いて褒め口笛を鳴らす。危機感がないが、この集団に勝てる兵力がないのは、魔力感知で確認済みなので咎めずに笑顔で受けておいた。


『焦ったくせに』


 にやにやしながら出てきた青猫の鼻先をデコピンし『ぐおぉおお、卑怯なりぃ』と叫んで影に逃げる姿が、途中で黒豹に捕捉されるのを見る。


「ブラウの奴、ついに時代劇に手を出したか」


 おばあちゃんと観た時代劇の言い回しを思い出しながら、馬の背に揺られて笑い……舌を噛んだ。

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