190.噂の一人歩きどころか成長?(2)
キベリをスノーの小さな手に握らせながら、時折口に押しつけられた芋虫形状の果物を食べる。甘酸っぱさが切なさに変わりそうだぜ。
噂の内容は――否定しづらい物が一部含まれていた。あと情報源を特定できるものも。
オレの素性はすっ飛ばし、突然現れた大型新人扱いだった。この辺はレイルの誤魔化しが聞いてると思う。実は北の国王の隠し子で、庶子だったという嘘は苦笑いだ。まあ王族に名を連ねたから、完全に嘘ではない。
聖獣達を餌付けしたため、顎でこき使っている。うーん? 違う気がした。まあ野営の煮炊きに使うけどね。
顔が整っているうえ、少女のように細いのでよく襲われる。ここは全力で否定しておこう。オレはまだ無事だ。どこがって聞くなよ。大量のピアスが示す通り、魔力量は豊富だが扱いが下手で暴走の危険あり。この辺は赤瞳の竜を上手に誤魔化した結果だろうから許す。
ひとつずつ検分した。
西の国へ拐われて生還した際、中央の国の皇帝に惚れて西の国を手土産にした……惜しいぞ。北の国で傲慢な貴族を一掃し、帰り道におまけでドラゴンを倒した。この辺の脚色は修正方法がわからん。
中央の国で好き勝手し、気に入らない貴族は皇帝の威を借りて叩きのめした。おおう、オレがすごいクソガキに聞こえるんだが気のせいか?
他にも赤い悪魔を手懐けたって、レイルは自分でちゃんと否定しろ。外見で釣ったゴツい男を侍らせて、ハーレムを築いたらしい。誰の話だろうね。
噂の一人歩きの成長具合に、目頭を押さえて「よくここまで」と感涙するレベルだ。もちろん嬉しくない。ほとんど間違ってるけど、所々正しいのが複雑だった。
「どこまで本当だ?」
「半分くらいかな」
「そうか、半分も合ってるなら噂としては上等だな」
感心するジャッキーに、苦笑いした。キベリを食べ終えたスノーが「足りない」とオレの爪を齧る。
「ボス、準備できたぜ」
噂の確認をしている間に、傭兵達は準備が終わったらしい。ぐるりと見回し、大きな荷物を持ってる奴を数人手招きした。
「荷物はオレが収納で運ぶから、ここ。今回はのんびり行進じゃなくて、早朝までに砦に辿り着くのが目的だから。武器と水筒以外はこの上ね」
取り出した大きなシートを示す。ビニールシートに見た目が似ているが、これは布なのだ。緊急時は毛布や雨具にもなるよう、防水機能を付け足した。その上に着替えや予備の装備が並べられる。
「大丈夫なのか」
心配そうなジャッキーに、他の傭兵が先に話しかけた。どうやら顔見知りらしい。親しげに肩を抱くと、こそこそと説明する。
「ボスは銃弾を弾く。死んで取り出せなくなる心配はないから、何も問題ない」
ぐっと親指立てて、力説した。内容は間違ってないのに、オレがドラゴン級の化け物扱いされてるような……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます