295.食堂会議ふたたび(2)
「お話はわかりました。では南の国を傭兵に与える件をご説明いただけますか」
納得してなくても最後まで話を聞いてくれるのは、ウルスラが優秀な宰相である証拠だ。途中で「でも」だの「だが」と口を突っ込む輩が多いからな。特に甘やかされた貴族階級は、すぐに自己主張を始めて他人の話を遮る。会話にならないんだよ。外交官なら一発退場だ。
「南に関しては、聖獣のマロンがジークムンドと契約すると言ったからね。オレが東の国を獣人に管理してもらおうと思ったのと、根本の部分は同じなんだ」
一度話をきってシフェルとウルスラの顔を見て、このまま話を続けることを選んだ。
「差別された連中にさ、帰れる安全な場所を用意したいんだよ。孤児はもちろん、傭兵や獣人も。安全な逃げ場所って、絶対に必要だぜ」
ニートだったオレは実感してる。誰かに咎められたり、嫌な目で見られたりしない逃げ場がどれだけ大切か。常に表しか歩いてこなかった奴らには分からない。だから、負け犬予備軍だったオレが用意するんだ。
「……一理あります」
シフェルは意外にも譲歩を見せた。というより、否定する材料がないのか。表舞台を歩いてきた奴だって、逃げたくなったことの一回や二回あるのかも? ふっと笑って、ウルスラの反応を窺った。
「併合は無理ですか?」
「無理。絶対にダメ、リアムと契約する聖獣はヒジリだけだ」
実際には契約してくれる聖獣はいる。コウコはリアムと相性がいいし、スノーやマロンもオレが頼めば文句言わない。ブラウはよくわからないが、逆らう可能性は低かった。
でもダメだ。特産物がなくなるとか、気候が統一されて旱魃などの被害が広がりやすいとか。正当な理由だけじゃない。オレのエゴだった。
聖獣をすべてコンプリートした立場を彼女に渡すのは、まったく抵抗がない。喜んでくれるなら譲渡する。ただ、彼女が国を統一したら、オレ達の子が相続するのは確定だった。その場合、今のリアム以上に子どもが危険にさらされる。命の危機はもちろん、女の子なら貞操も狙われるし、男の子でも傀儡にされるだろう。
子々孫々、ずっと餌食にされる可能性があるのに、その選択肢を選ぶ親はいないだろ。気が早いとか言うなよ。実際に他国の状況を見ての実感だった。そこまで彼らに説明する気はないけど。
きっぱり断ったオレの顔を見つめたシフェルは、机に肘をついて考え込んだ。ウルスラは腕を組んで目を閉じる。どちらも真剣に、可能性や危険を秤にかけているのだろう。オレより頭のいい彼と彼女なら、同じ結論に辿り着くと思う。
「懸念は理解できました」
シフェルは苦笑いしながら、ブロンズ色の前髪をかき上げた。顔に残る傷が嫌に目につく。
「私はキヨの案で構いません。不都合があればその都度変更すればいいでしょうし、キヨがいるなら聖獣殿は世界を守ってくれるでしょうから」
世界や国が壊れる前になんとかしろ。責任持つなら好きにしていい。そんな意味合いだった。
ウルスラが溜め息を吐いて口元を緩める。彼女の前に置かれたカップに、じいやがお茶を注ぎ足した。じいやの急須いいな、これ欲しい。黒い艶のある急須がカッコいいぞ。
「その案で調整します。各国の国王が決まったら顔合わせをしましょう。西の国は王女殿下の婚約者が決まりました」
「へぇ、誰になったの?」
「自国の公爵家から選んだと聞いています。本当は北の国の王弟のご子息様を希望されたそうですが」
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