223.東の国へ大急ぎで突入!(2)

「大丈夫、スノーの分もあるよ」


 白いシチューを注ぐと、恥ずかしそうに背中を向けて飲み始めた。最後にマロンの器にも足してやり、パンを千切って染み込ませる。


「こうするとパンも美味しいぞ」


 目を輝かせるマロンは幸せそうにパンに手を伸ばした。スプーン、と思ったが好きにさせる。子供姿だと火傷が心配だけど、平気みたいだ。ぱくりと口に放り込み、にこにこと頬を両手で包む姿は幸せそうだった。問題は金髪がシチュー塗れになること。仕方なく髪紐を取り出して、マロンの髪を結んでやった。


 両手で手掴みで食べるマロンは、ベタベタの手で髪紐に手を伸ばす。


「こら、ご飯の手であちこち触ったらダメ。我慢」


 言い聞かせるとなぜか笑いながら頷いた。叱られるのも構ってもらったと喜んだみたいだ。どれだけ孤独だったんだろう。寂しかったマロンを想像したら泣きそうだから、ぽんと結び目を叩いて終わったぞと示すだけにした。


「ご主人様、美味しいです」


「よかった。……それにしても、うちの連中のがっつき振りが心配なんだが」


 ちゃんと量は用意してるはずだけど。足りないわけじゃないよな? 疑問の響きに、早速お代わりをしたジャックが、大声で笑った。


「量が足りないこたぁない。ただ旨いもんは早い者勝ちが染み付いてんだろ」


 なるほど。単にカレーをお代わりする給食の小学生レベルって話だ。量が足りなくて腹が減るんじゃなく、精神的に満たされようとする。今後もシチューは争奪戦が繰り広げられるんだろう。きっと量を増やして倍にしても同じようにかっ込んで、咽せながらお代わりを取りに行く。


 親が料理を作って食べさせ、安全を確保して育てた子供なら違うのかもしれない。量があれば安心出来るけど、彼らは生きること自体が戦いだった。いつ死んでもおかしくない傭兵なんて職業で、一片だって悔いを残さない生き方が染み付いてる。


 否定するほど、オレは偉くないからね。隣でお代わりを啜るマロンだって、一般的に見たらお行儀が悪い。スープやシチューは音を立てて飲んだらいけないからね。でも傭兵はみんな似たり寄ったり、味噌汁飲むみたいに音を立てて流し込む。この環境で気取って注意するより、ベルナルドみたいに馴染んだ方が勝ちかな。


 もしかしてそこまで計算して? 元侯爵だし、騎士だったし……そんな思いで視線を向けるが、気取って蓄えた髭を汚しながら食べる姿に気品はなかった。そこまで高尚な考えはなさそうだ。単に堕落したというか、染まっただけだな……うん。





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