82.大人の事情で(3)

「こうやって飴ひとつで笑うあたり、子供だよな」


「これで二つ名持ちだろ?」


「「「「ないない」」」」


 口を揃えた仲良し傭兵集団にベロを出して抗議する。飴を口の中で転がしながら、影から出てきたコウコが腕に絡みついた。気づけば先ほど踏まれたブラウも、巨大猫化して後ろを歩いている。いや、コイツは大きいのが標準だったかも。


「宿は騎士、兵士、傭兵の順番だから……おれらは野営だな」


 けろりと言い切ったジャック達は、まったく気にした様子がない。多くの兵がすべて入れないのは物理的にしょうがないとして、順番が決まってるのも……まあ、軍隊だから当然なんだろう。でも外に出されるのがいつも傭兵だとしたら、不公平さを感じないか?


「おれは自分の拠点に帰って寝る」


 ぼそっとレイルが申告する。おかげで街に拠点があるのだと知った。5つの国すべてに拠点があるんだから、大きさはともかく支店みたいな場所は持ってると思う。店じゃないから、支部と呼ぶ方が正しいかもね。


「うーん、なんで傭兵の地位ってそんなに低いのさ。しかも皆が納得してるのが理解できない」


 子供の外見と異世界人の経歴を生かして、素直に疑問を口にする。『聞くは一時の恥、聞かぬは一生の恥』よく親に聞かされた言葉だった。今になれば、大切な格言だと思う。


 知らないまま知ったフリするのは簡単だが、そんなのカッコ悪い。


「キヨが何に憤ってるかわからん」


「難しいことばっか考えてるとハゲるぞ」


「子供だから、お前はシフェルのところに泊めてもらえばいいさ」


 ライアン、ジャック、レイルの言葉に首を横に振った。そうじゃなくて、自分が泊まる場所の心配してるわけじゃない。ヒジリの毛皮を撫でながら、噛み砕いて疑問を再び声にした。


「オレが不思議なのは、功績に対して褒美が合わないこと。今回で一番危険な場所で戦って、間を開けずに連戦して、一番戦績をあげたのはうちの傭兵部隊じゃん。なのにオレらが外っておかしいだろ……って意味だよ」


 目を見開いたジークムンドとジャックが顔を見合わせ、ノアは驚きすぎて足を止める。サシャに肩を叩かれて慌てて駆け戻ってきた。他の傭兵連中も何やらひそひそ話している。


「何? 文句は直接言えよ」


 どうせ子供の我が侭みたいな話だろ。唇を尖らせながら抗議すれば、レイルが大声で笑い出した。釣られるように数人がにやりと笑う。強面って笑うと凄みがましてヤバイ。


「お前って、本当に規格外だ」


「異世界は平和な場所だったんだな」


 傭兵達が口々に呟いた言葉は、羨ましさなんて微塵もなかった。ただ事実を淡々と口にする、無味乾燥の事実確認に聞こえる。


「キヨ、傭兵は居場所がない連中の集団だ。どこの国からもはみ出した奴らなんだよ」


 ノアがぼそっと呟いた。その響きには自嘲すらなくて、世界の理を語るように冷たく響く。意味も分からず苦しくなって、胸元のシャツを握りしめた。

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