18.裏切りか、策略か(5)

 収納魔法で武器は持ってるし、当面の食料も足りていた。動かずに助けを待つのと、自分で逃げ出す方法のどちらが正解だろう。見上げても森の木で空はみえなかった。暗いので、夜なのは確かだ。


 ――ん? 夜?


 黒い沼の中にいた時間は短い。少なくとも窒息せず息が続く時間しか飲まれていなかった。オレが沼に吸い込まれたのは、午後の日差しが柔らかい時間帯で……午後3時に届くかどうか。現れた瞬間から暗かった状況を考えると、ここはかなり遠い場所だ。


 南半球とか、そういう概念がない可能性もあるけど……少なくとも空の色が変わる距離があるなら、他国の可能性が高いわけだ。しかも連中、外国語――つうか、何語かわからない――を話していた。


 空中に手を入れる感覚で、開けと命じる。収納魔法の口は呼び出した当人しか見えないため、そこから希望の物を思い浮かべると手に触れた。引っ張り出した地図を地面に広げ、ごろんと俯せに体勢を変える。リアムにもらった地図は昨年更新された最新版だ。


 記された旗はリアムの宮殿で、大陸の中央に近い場所にある。地図は南上で描かれているが、北が上の地図に慣れた日本人には違和感しかない。だが逆さにすると文字も逆さになるため、仕方なくそのまま眺めた。


 地図にいくつか上下に引かれた線がある。そこが所謂いわゆる日付変更線に近い、時間と空間の隙間だ。前世界だと丸い地球をぐるりと時間の帯が巻いてある感じで、緩やかに時間帯が動いていく。隣の国がいきなり昼夜逆転にはならないが、この世界は時空の隙間にある『時空線』で、天気や時間帯が極端に切り替わるのだ。


 ヨーロッパで地面に線が引いてあり、左がオランダで右がベルギーで国境をまたげる話をテレビで観たが、あれに近い。ただ国境を跨いでも昼夜や天気は同じなのだが、時空線を超えると雨が晴れたり、昼が夜になったりする。


 最新版の地図は魔力のある人間が触れると、現在の天気や昼夜の状況を示してくれる機能が搭載されていた。便利なこの地図で見る限り、オレは大陸の端にある東の国に飛ばされたらしい。他に現在が夜の国は、西の国にある自治領くらいだ。


「どっちだ?」


 西も東も晴れた夜なので、判断がつかない。さすがにスマホみたいなGPS機能が搭載されていない地図では、現在地の確認は出来なかった。


 GPSみたいな機能、魔法でなんとかなるなら来年更新の地図に足してもらおう。多少現実逃避しながら、中途半端な地図をにらみ付けた。


 ぽつん、雨が音を立てる。ぱたぱたと葉が雨を受ける音が響き、あっという間に周囲はスコールのような豪雨となった。慌てて地図を畳もうとして、西の自治領に雨の印が出ている事実に気付く。畳み掛けた地図をもう一度開くと、東の国は晴天のままだった。


「西の端の自治領……」

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