102.外交なんて柄じゃない(2)

「シフェルの言い分は軍事面だよな。ウルスラさんは何かある? 殺すことで得られる政治的なメリットを教えてよ」


「メリット、ですか?」


 大きく頷く。おそらく政治面で捕虜を殺すメリットはほぼゼロだ。だからこそ、生かした場合のメリットを強調できる。


「セイ、あーん」


 途中で隣から焼き菓子が差し出され、ぱくりと食べる。いきなり食べさせる理由が分からなくて、リアムを振り返ると……少し頬が膨らんでいた。尖った唇も可愛い。ピンク色の唇に触れると止まらなくなりそうな予感がしたので、頬をぷすっと指で押した。


「そんな顔しないで。ちゃんとリアムと手を繋いでるだろ」


 言いながら、皿の上の焼き菓子を摘まんで食べさせる。素直に受け入れたリアムの膨らんだ頬が笑みに崩れ、嬉しそうな唇が緩んで白い歯を見せてくれた。


「笑ってる方が断然いいよ、リアム」


 イケメンなセリフに、斜め後ろで「けっ」と吐き捨てた青猫の尻尾を踏んでおく。なにやら悲鳴を上げて謝っているが、変だな。普通は踏んだ方が謝るんだぞ? 尻尾を踏みにじりながら温い眼差しを向けてやった。


『主殿、そこの騎士殿に似てきたぞ』


「やだな。ヒジリ、そんなわけないじゃん」


 笑顔で否定すると「どういう意味でも失礼ですよ」とシフェルが呟く。聞かなかったフリで流し、昼寝を始めた爬虫類2匹を軽く撫でた。ヒジリが足にすり寄って、そっと横たわる。近くにいたいのだろうと首のあたりを撫でてからポンと終了の合図に叩いた。


「いきなりは思いつきません」


 ウルスラの呟きを拾って、会議に意識を戻す。


「もし自国民が捕虜交換で帰ってきたら、労働力や戦力の補充が出来るし、家族も喜ぶ。税金を納めてくれる人が増えるから、街もにぎやかになるよね」


 そこまでは反論なく、シフェルもウルスラも頷いた。見ると、隣のリアムも考え込みながら頷いてくれる。どうやら一緒に考えてくれているようだ。


「連れ帰った捕虜を生きたまま活用したとする。北の王太子なんか、王族だからそれなりの教育受けてるはずだ。文字が書けて読めるから、文官の雑用位お手の物でしょ。それに人を率いる素質もあるだろうから、仲間にしたら役に立つじゃん」


「人を率いる素質は、クーデターの首謀者の素質ですよ」


 軍事面からシフェルが口を挟む。言い分はわかるし、間違ってないけど……常に一方向からしか物も見ないと気づかないんだろうな。

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