102.外交なんて柄じゃない(3)
カップに手を伸ばすと、侍女が置いて行ったポットからシフェルが追加を注いでくれた。
「ありがと」
リアムとオレのカップに注がれた紅茶に、リアムが紅茶を口元に運ぶ。思わず途中で手を伸ばして遮っていた。
「このポットの中身、誰も毒見してないぞ。それと……リアムにはまだ熱いと思う」
驚いた顔をしたのはウルスラだった。シフェルは「合格です」と満足そうに呟く。宮殿にいる間はリアムの護衛を兼ねてるし、何より大切な伴侶になる女性に毒を盛られるのも、火傷されるのも御免だった。
先に一口飲んで、やっぱり思ったより熱かったことに眉をひそめた。紅茶のソーサーの上に氷を作り、シフェルに見せる。摘まんで首をかしげると、彼は頷いた。そこで自分の紅茶に入れて温度を冷まして飲む。安全なのを確認させて、リアムのカップに滑り込ませた。
「ありがとう、セイ」
「どういたしまして」
くるりとスプーンでかき回してから渡す。こうして彼女の面倒を見るのが嫌だと感じることはなくて、それこそ全部をオレが手出ししたいくらいだった。ニートだった過去のオレのずぼらさが嘘のようだ。カミサマが与えたチートに『やるき』が含まれていたんだろうか。
後ろから這い寄る薔薇に、ブラウが捕まったらしい。悲鳴を上げて引きずられる青猫は、なんとか蔓を引きちぎって逃げてきた。気の毒になったのか、蔓を尻尾で払うヒジリが毛繕いをしてやっている。あれだよな、怖いときにぶわっと猫の毛が起きる現象がブラウの全身で起きていた。
「話を戻すね。クーデターが起きる原因を考えてよ。扱いが悪いからでしょ? オレだって人扱いされてたら無理に逃げなかった。暗殺者が送り込まれたから、森に逃げたわけ。食料も魔法の扱いもわからない状態でね」
そこで言葉を切って、紅茶を飲む。香りがいいな、何か茶葉をブレンドしたんだろうか。以前にこの宮殿で飲んだ紅茶と味が違う。
「人は好意的に接してくる相手を嫌うのは難しいんだ。実際、北の王太子は『殺されるだろうから、先に礼を言っとく』って頭を下げた。オレが彼の生存を決める権利を持たないのに、媚びる価値がないのはわかってるはずだ。でも『部下に食事をありがとう』と言ったのは、オレが彼らを人扱いしたからじゃん」
「あの……王太子が、キヨに礼を?」
すごく驚いた顔をされた。アイツ、意外といい奴だぞ。礼儀正しいし、部下のこと思いやれる男だ。
「キヨヒト殿は外交官向きかも知れませんね」
ため息交じりのウルスラの言葉に「絶対に嫌だ」と拒否した。胃が痛くなりそうな職業フラグは要らないし、オレはリアムの婿さんで平和に暮らしたい。
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