68.いざ次の戦場へ! 危険だから1人ずつだぞ(3)

「魔法陣で移動するぞ」


「だよね」


 良かったと胸を撫で下ろしながら、レイルが取り出した魔法陣を見る。なんか、ちっさくね? 今までだと部屋のラグぐらいの大きさがあったから6人くらい乗れたけど、今回のは薄いぺらぺらの布で2人が精一杯だ。


 ガタイのいい奴だと単独で転送しないと無理そう。


「これ、単独用?」


 予算ケチられたとか。もしかしたら、オレの異世界人専用予算終了のお知らせだったりして。眉を寄せて不審そうな顔をするオレを、周囲が疑問の眼差しで見つめる。


「キヨの捜索隊が使ってた絨毯は、急ぎで作らせたから予算度外視の大きさだったが、普段はこの大きさが標準だぞ」


 ジャックが呆れ顔で教えてくれた。


「え? じゃあこれから順番に転送してたら、時間かかるけど」


「それが普通だ」


 普通と標準って……そうか。この世界で戦争当日の朝まで優雅に自宅にいるのに、どうして戦が世界中に飛び火しないのかと思ってたけど、こういう理由があったんだ。


 一度に大軍を送り込むには、大金をかけて大きな魔法陣を作らなきゃならない。しかも魔法陣は両側に必要だから、西の国を攻めた時みたいに反対側に手引きする人間がいないと難しいのだ。


「反対側は用意されてるんだよね?」


 魔力通したら出口が設置されてなかった、なんて間抜けな事故は嫌だから確認する。げらげら笑い出したレイルが「大丈夫だ」と請け負った。彼らの説明によれば、作る際に2点セットが厳守らしい。あとから追加で作って入り口と出口が合わないトラブルが過去にあったとか。


 やっぱり、あるよな。人が作るものだから。出入口が一致しないトラブルの際は、入った人はどこへ消えたんだろうか。聞きたいような、聞いたら後悔しそうな……うん、聞くのはやめておこう。怖くて転移魔法陣使えなくなりそうだ。


「時間がないぞ、ほら」


「わかった。最初にジャック達、つづいてジークの班、最後にオレとレイル」


 てきぱきと指示するが、すぐにクレームが来た。


「おれはキヨの後がいい」


 ノアのオカン発言だ。子供が成功したら後を追いたいらしい。しかし時間が本当にないのだから、先に安全確保して欲しいし、何よりシフェルに遅れて怒られるのが怖かった。


「命令だぞ。危険だから一人ずつ、早くしないとオレが遅刻する!」


 情けない命令でジャックから転送、続いてサシャとライアンも送れば、諦めたらしくノアも魔法陣に乗った。彼らはこういった魔法陣の使い方も慣れているのか、一人いなくなるとすぐに乗って転移する。順調に見送っていたが、残り10人ほどでトラブルが起きた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る