345.物騒な相談は個室で(2)

 聖獣の咎人とがびと――聞いた途端にレイルの顔が青褪めた。どうやらかなり残酷な方法らしい。わくわくしながら、床に座り直してヒジリの頭を撫でた。軽い機嫌取りだ。


「それ、詳しく」


 顔色を無くしたレイルは、聞く気も教える気もないようだ。気分が悪そうなので、退室を許した。結界を解くと、大急ぎで部屋を出て行った。失礼だな、オレが何かしたみたいじゃないか。


 ヒジリの説明は回りくどい表現がいくつかあったが、簡単にまとめると以下の通りだ。


 適用されるのは、聖獣または聖獣の主人に危害を加えた者。ここで契約者ではなく主人という部分が特殊なのだという。土地の契約者である王族が害されても動けない。だが聖獣本人または大切な主人を害されたときに初めて使えるのだ。今回の場合、リアの兄が殺されてもヒジリは動かないが、オレやヒジリがいる場所で毒を撒いたことが該当するらしい。


 聖獣が掛けた戒めは、オレの知る呪いが近かった。呪われると酷い目に遭う、または死ぬ。それのもっと残虐バージョンだった。死ねなくなるという。深く考えなければ不老不死のようだが、不死だけ。老いる速度は変わらないし、聖獣が戒めを解くと死ねる。ヒジリが咎人として彼を指定することで、何度殺しても死ねないサンドバッグが出来上がるわけか。


 殺し放題だ。飽きるまで首や手足を斬り落とし、火炙りにして水責めに出来る。


「よし、それでいこう!」


『期間は数年か?』


「気が済むまで」


 誰の気が済むまでか。リア、オレ、シフェル達? 迷惑をかけた一般市民も殺したいだろうな。あのおっさん、あちこちで皇族の名を振り翳して傍若無人に振る舞ったらしいから。


『ふむ、ならば期間を無制限にしておくゆえ、主殿が終了を教えてくれればよい』


「決まり! すぐやっちゃって」


『何ともせっかちなことよ』


 文句のように呟きながらも、ぐるぐると喉はご機嫌に音を鳴らす。足下の影に消えた彼を見送り、オレは上機嫌でベッドに寝転がった。


「あっ!」


 叫んで身を起こす。勝手に決めちゃったけど、リアに相談してない。ウルスラやシフェルも交えて話しておいた方がいいか? 後で叱られるのも面倒だし。


 階段を降りると後片付けをした子ども達改め新兵が並び、真剣な顔でアミダクジをしていた。以前暇つぶしでノアに教えたから、彼が発案のようだ。


「何してんの?」


「あ、ボス。部屋割りです」


「敬語禁止」


 ぼそっと注意して覗き込んだ。部屋番号が書いた紙の上に、それぞれの名が記されている。


「これ、誰が書いたの?」


「僕、です……だ」


 無理に直さなくていいと笑った。ですだ、は狙ったのかと思う高得点だぞ。


 孤児院では文字を教えていた。日本で言うひらがなレベルの文字が書ければ、就職先が見つかるこの世界でこれだけ書けたら十分。ぐるりと見回して「他にも字が書ける子は?」と尋ねたらほとんどが手を上げた。自信なさげな子も数人いるが、得意不得意は仕方ない。


 元貴族のジャックは書けるが、ノア達に教えてもらうか。部下が書けるのに部隊長を任せる彼らが書けないのはカッコつかないだろ。うん、その辺は後でジャックに相談だ。


 レイルの組織はきちんと子どもの教育はしているらしく、計算もこなす子が多かった。戦いの方の実力は、毎朝の訓練で……あ。


「早朝訓練の話した?」


「簡単に」


 にやりと笑うライアンとサシャが怖い。絶対に簡単そうに話したんだろ。そんで明日大量の負傷者が出る未来が見える。


「あぁ、その……お手柔らかにな?」


 殺すなよ。遠回しに注意して、食堂の机の上に絆創膏もどきを大量に積んだ。これで足りるといいが。

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