13.盾となる名誉(5)
さっと膝をついて控えた騎士達が見守る中、オレは笑みを浮かべる。
「ひっ……嫌だっ! 嘘だ、私は陛下を……」
途切れ途切れに嘆願と言い訳を吐き出す口に、心底嫌気がさした。こんな醜い存在が、オレの手を
「承りました…っ」
最後の一言に力を入れて、一気に喉を突いた。笑みを浮かべたまま、他者の命を奪う。その行為にまったく嫌悪感はなかった。過去の世界なら出来なかった行為だが、今はすんなり受け入れられる。
殺されかけたのだ、オレ達は。皇帝陛下たるリアムを狙い、侍女を撃ち抜き、オレは殺されかけた。何が目的で誰が指示したかなんて関係ない。
この男は、”リアムが処断した罪人”だった。
突き立てた簪はわずかに動脈を逸れている。呼吸を求めて動く口が魚のようだ。哀れな獲物を見つめたまま、膝をついて見届ける騎士へ左手を差し出した。心得たように鞘をもって差し出された短剣の柄を握り、引き抜いて目の前の獲物の喉を掻き切る。
「ふ……ぁ、っぐ」
空気が零れる音が悲鳴となる。絶命の音を聞きながら、手の中の短剣を投げて受け止めた。逆手に持ち直した短剣を男の傷口に立て、90度抉る。
ひゅっ、空気が漏れるような音が最期で、やっと獲物の息が止まった。胸の上に座ったまま、熱に浮かされた興奮の余韻に浸っていると、騎士のひとりが喉から短剣を引き抜く。
「見事だ、キヨヒト」
リアムの声に我に返った。それまでに騎士が声をかけたかも知れないが、まったく聞こえていない。熱でふわふわした意識が急激に冷えた。
「こちらへ来い」
命じるリアムの声に従って、息絶えた獲物から離れる。座っていた胸の上から降りて、肩で大きく息をついた。風が吹いて解けた髪を揺らす。
まだ興奮冷めやらぬまま、左手で
……触らなきゃ良かった。
後悔しながらリアムの前に立つと、血に汚れたオレの頬に彼の手が伸ばされる。咄嗟に一歩後ろへさがっていた。
「キヨヒト?」
不思議そうな皇帝の声に、騎士達が振り返った。全員の視線が突き刺さるなか、オレは首を横に振る。赤い手を隠すように後ろに回した。
「……汚れてる、から」
触れないと告げる。なぜか泣きたくなった。
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