212.卑怯くさいけど有効(3)
「薬品か香だと思う。何か撒かれたっぽい。頭がぼんやりして動きが鈍くなる。ブラウ、吹き飛ばせるか?」
これは風を操る青猫の得意分野だ。金瞳を細めて外を見つめたブラウの尻尾が、ぱしんと地面を叩いた。
『いけるよ。目に見えない物をすべて吹き飛ばせばいい』
そのくらいは簡単だと笑うブラウに任せる。
「ヒジリは治癒を頼む。ふらついてる奴や頭を押さえてやる奴を優先で」
『承知した』
青猫に続き、黒豹も結界の外へ出た。これで最低限の防御は取れる。
『主人、犯人はアタクシが見つけるわ』
ちろちろと舌を覗かせる赤いミニ龍が、黒い笑みを浮かべる。蛇や龍は宝の守り手だった。つまり隠された物を見つける能力は一番高い。任せると頷けば、するすると足に絡み付いてから影に消えた。
『僕も主様のお手伝いがしたいです』
スノーが小さな手を広げて必死にアピールする。もちろん、お前にも仕事はあるぞ。
「氷の応用で、周囲の温度を少し下げられるか? 少しでいい」
あまり気温を下げると、スノーやコウコが活動できなくなるからな。ぽんと頭に手を置いて、ぐりぐりと乱暴に撫でると嬉しそうに頷いた。
「マロン、悪いがオレを乗せて走ってもらうぞ」
『囮になる気ですか……ご主人様らしいというか、呆れますけど』
「結界張るから安全だぞ」
『いいですよ』
ぽんと地を蹴って、マロンの背に手をついた。跳び箱のように力を込めて飛び上がれば、裸馬の背に跨れる。この世界来てチートな運動神経もらって、本当に助かってる。こういう場面で尻を押してもらうの、カッコ悪いもんな。
「よし、頼む」
結界を一気に小さくした。オレとマロンだけ囲む形だ。見た目には結界が消えたように見えただろう。襲いかかる男を蹴飛ばし、マロンが走り出した。手綱がないので、鬣の一部を握らせてもらう。
音は拾うが臭いを遮断した結界により、外の状況が分かりづらい。だがブラウが大きな竜巻を起こして、ついでに5人程の敵を巻き添えにしていた。あれが「なんちゃらタイフーン」か?
彼のチャラけた言い方を思い出し、吹き出す。気分がすごく楽になった。傭兵達の戦いの合間を、わざと姿を見せつけながら抜ける。テントを張った一角を抜けた途端、銃弾が叩きつけられた。
「うわっ、うるせぇ」
結界に遮音をつけ直す。夕立の雨音に似た爆音が止んで、しんと静まり返った。ある程度走ったところで、止まるよう指示する。飛び降りてマロンの背を叩いた。
「お疲れさん……で、マロンは誰の指示で動いてるの?」
追いかけてくる敵を睨み、マロンに背を向けたまま核心をつく一言を放った。
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