34.夢オチが怖いので抓ってみた(2)

 諦めた様子のシフェルがついに折れたことで、オレとリアムの婚約は仮に認められたらしい。他の皇族がいないのは聞いているから、反対できるのは側近だけなのだろう。


「食事をしながらでいいか?」


 オレは尋ねながら、顔を聖獣へ向ける。悪気なく、断りもなく、オレの手を齧る。空気の読めない聖獣は空腹なのだ。さっきからゴリゴリと骨を噛んでる音がした。痛いと感じた直後に治癒されるが、傷がなければいい話ではない。


「そうですね。朝食を運ばせます」


 シフェルが部屋を出て行くのを見送り、入ってきた侍女達がリアムを続き部屋に連れて行った。部屋に1人――正確には1人と1匹――になると、ソファの足元に崩れ落ちる。気が抜けたついでに、腰もぬけた。


 美人で綺麗、男にしておくのはもったいないと何度も思ったが、本当に異性だったなんて。


「オレがリアムと…」


 頬を染めてソファに寄りかかるオレの足に、ヒジリがのそりと顎を乗せた。


『主殿、めでたいことか?』


 騒動がすごかったので、祝ってもいいか判断に困っていたようだ。オレは嬉しいし祝って欲しいので頷くと、ヒジリの身体が青白く光った。僅かな時間だけですぐに光は消える。


「今の、なに?」


『祝いだ。おめでとう、主殿』


「ありがと」


 よくわからないが、素直に受け取っておく。光るのがお祝いだなんて、なかなか洒落たことをするものだ。ヒジリの頭を撫でながら待つと、隣室へ繋がる扉が開いた。


「あ、リアム……っ!?」


 着替えて普段と同じ姿になっていると思ったのに、まさかの薄ピンクのドレスだった。足首までしっかりスカートが隠している。胸元は刺繍が埋め尽くす花模様のビスチェ風で、下のスカートはたっぷりしたふわふわしたデザインだ。ノースリーブの腕をアイボリーのボレロが隠していた。


 クリスみたいな巨乳じゃない控えめな胸元に、薔薇に似た花飾りが揺れる。巨乳は好きだが、リアムのささやかな胸も好きだ。というか、好きな人ならどっちでもいい。結局のところ、オレにとって惚れた女が理想になってしまうのだから。


 すごい清楚な感じの可愛い格好だ。象牙色の肌に桜色に近い薄ピンクが似合う。黒髪は緩やかに結って、半分ほど左側に垂らしていた。ハーフアップだっけ? 女性の髪形に詳しくないけど、項の後れ毛が色っぽい。


 顔が一気に赤くなるのが分かった。耳も真っ赤だろう。バカみたいにぽけっと眺めたあと、照れているリアムの指先がスカートを掴んで震えているのに気付いた。


『主殿』


 促されなくても分かった。たぶん、初めての女の子の格好で緊張しているのと、オレがどう思うか不安なのが混じっている。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る