162.人気取り? やったもん勝ち(6)

 夜会に参加しない傭兵が真実を知るはずもなく、オレも特に言わなかった。レイルも一緒になって笑い飛ばしたため、彼らが真相に気づくことはない。それでいいんだろう、たぶん。


 レイルは真実を嘘のように話すのが上手だった。この話を聞いた傭兵に、他の貴族が近づいて「レイルは王族だ」と分断を図ったとしよう。仲間だと思っていた奴が実は支配階級だったなんて、傭兵にとっては裏切り行為に見えるかもしれない。隠していたことを責める奴も出るだろう。そんな中、誰かが今の話を知っていたら? 冗談だと笑われ、本当が嘘にされる。


 情報操作は事実や真実を隠すことより、隠さずに利用することの方が怖いんじゃないか。やり手の情報屋として各国に情報網を張り巡らせたレイルの真骨頂は、こういう情報の『使い方』にあると思う。新しい情報を人より早く知ることも重要だけど、知った情報をどう使うかが腕の見せ所のような気がした。


「王族だったら、オレもじゃん。少なくとも侯爵より偉いぞ」


 胸を張って茶化すと、ラスカートン侯爵の顔が真っ赤になった。憤慨しているのは良いことだ。頭に血が上るほど、正常な判断が出来なくなり罠にハマる。


「ただのごときが!」


 異世界人という言い方はされたが、異人と呼ばれたのは初めてだ。きょとんとしたオレをよそに、周囲はざわついた。


 ひとまずノアが面接の人間を外へ出す。判定はオレが許可を出した1人だけ採用となった。彼らを出した途端、ジークムンドが怒鳴る。


「どういうつもりだ!? ボスを馬鹿にする気か」


「あんた、その単語の意味を知って使ったのか!」


 何をそんなに怒っているのか、当事者のオレだけが知らない。飄々としてたレイルでさえ、眉を寄せて舌打ちした。どうやら「異人」という表現は侮蔑を含んだ差別用語らしい。


 オレの翻訳だと「異邦人」みたいな感じだから、別に嫌な感じはしないけど。カミサマの自動翻訳、時々ポンコツなのは諦めよう。


「……オレが意味を知らないと思って使った? 残念だけど、意味通じてるよ」


 はったりをかますと、公爵は一瞬視線を彷徨わせた。にやにやしながら、椅子の背もたれを抱えて足を揺する。子供の仕草で、首をかしげた。


「あんたは中央の国の侯爵閣下だろうさ。だけどオレは皇帝陛下のお気に入りで、北の国の王族で、異世界から知識を持ち込むお宝なわけ。国はどちらを取ると思う?」


 あんたとオレ、すげ替えのきく侯爵家当主と、代わりのいない異世界人――はっきり比較を突きつけながら答えを待つのは、意外と楽しい。オレって絶対に根性曲がってるよな。性格悪い自覚あるもん。


「我が君、お願いがございます」


 予定通り、ここでベルナルドが口を挟んだ。

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