280.見物人が偉そうだねぇ(1)

 ここで重要なことに気づく。レイルが眉を顰め、王太子シンが舌打ちした。つまり、王族である彼らが嫌がる貴族が集まっているということだ。よりにもよって、リアムが一緒の時に!


「行きましょう、シン兄様、レイル兄様。お父様をお待たせしてはいけないからね」


 わざと丁寧な口調で告げると、はっとした様子でレイルが表情を引き締めた。シンは複雑な思いを誤魔化すように深呼吸して、笑顔を貼り付ける。この辺はさすが王族だ。


「リア姫、エスコートさせていただけますか?」


「もちろんです」


 やっと女性らしい口調に慣れてきたリアムが、言葉少なに応じる。その声に滲む緊張から、やはり何か感じ取ったのだと思う。ただでさえ緊張する場面で、本当にごめん。うちの兄達も知らなかった事件なので許して欲しいが、レイルは情報屋なので後で〆る。


 シフェルが小声で「良くできました」と褒めてくるが、なんで上から目線なの。お前もしっかりと皇帝陛下をお守りしろ。クリスティーンは公爵夫人としてではなく、皇帝陛下の護衛騎士として同行しているため騎士服。この場でエスコートが必要なのはパウラのみ。


「シン兄様、パウラ嬢を」


「おれが代行する」


 代わりにレイルが名乗り出た。一応王族なので問題ないだろう。王太子であるシンが女性をエスコートするとまずいのか? オレが知るルールでは思いつかなかった。だが、ここはレイルが名乗り出る理由があるはずだ。レイルがそっと手を差し伸べ、パウラは一礼してそれを受けた。


 シンが先頭を切って歩き出す。すぐ後ろをオレが続く。リアムに差し出した手が震えないのは、鍛え上げられた腕のおかげだ。触れるか触れないかの位置でキープって意外と疲れるから。ぷるぷるしないで済んでよかった。


 突き刺さるような不躾な視線を無視し、堂々と顔を上げて歩く。しゃらんと簪が音を立てた。目を見開いた連中がオレを示して何か言ってるが、反応してやる義務はなし。リアムは履き慣れないスカートが気になる様子だが、皇帝陛下らしく胸を張って歩いた。人目に晒されることには慣れてるし。


 護衛騎士ベルナルドは、執事のじいやと一番後ろに控えた。オレ達の次は客人扱いでメッツァラ公爵であるシフェルとクリスティーンだ。いっそ公爵夫人の方が良かったかも。この場で騎士服は不利だ。貴族とやりあうことを考え、着替えを促した方がいいかも知れない。手配はじいやとシフェルか。


 頭の中はフル回転だった。それでも穏やかな微笑みを忘れない。見よ! これがロイヤルスマイルだ!! 顔が引き攣るまで練習させられたんだぞ。美形がロイヤルスマイル浮かべると、それだけで凶器だからな。言っとくが狂気じゃないぞ。

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