236.同情するなら止めてやれ(3)

「ジーク班の呼び出しに加えて……ジャック班招集して」


「わかった」


 他の奴隷がいる屋敷を襲う。言い切ったオレに、ジャックが短く了承した。手早く指示を伝え、早馬の騎士が駆け出す。馬を使う彼らがキャンプ地につくまで1日、帰ってくるのに1日か。もしかしたら半日くらい早いかも。


「被害者救済活動しようぜ!」


 気持ちは奴隷解放運動である。ただ、奴隷奴隷と連呼するのはどうかと思うわけで……ここは被害者の救済が一番ふさわしい単語じゃないかな。


「まずは奴隷を持ってそうな貴族リスト、それから家の場所と見取り図だな」


「両方用意できたぞ、高く買ってもらおうか」


 にやにやしながらレイルが近づく。それからオレの頭をこつんと叩いた。拳骨って、あの骨が当たるとかなり痛い。涙目で唸りながら睨むと、書類を目の前に置きながら叱られた。


「お前、最近油断してるぞ。ったく、魔力感知切ってるだろ」


「うん……ごめん」


 確かにジャックの実家に来たあたりから楽してた。敵は目視できるし、聖獣勢揃いだったから。ベルナルドも護衛についてる。オレがそんなに警戒しなくてもいいかな……と思ってしまった。


「おれの手下がお前の頭上に到達しても、ちらりとも見ねえし……ったく。あのままなら暗殺されるぞ」


 叱ってくれる人がいるうちが華だっけ? ごめんと両手を合わせて謝ると、仕方ないといった様子でオレの頭を撫でた。乱暴な動きだが頬が緩んでしまう。


「お前を子ども扱いできる奴も減ったし……おれが見てやらねえと」


「ありがとう、レイル


「従兄弟だけどな。そういうのはシンに言ってやれ。喜ぶぞ」


 シン兄様と呼んだら、監禁されそうなほど可愛がってくれるだろう。語尾にハートマークつけたら、北の国に拉致は確定だった。


 レイルが持ってきたリストと見取り図、どちらも完ぺきだった。何なら、某侯爵家の緊急時に使う抜け道まで書かれてる。


「これ、詳しすぎて逆に怖い」


「ん? 建設時によくやるだろ。秘密の通路作った職人が殺されるやつ……あれを助けただけだ」


 こつこつと集めたんだが、役に立つもんだと笑う。この赤毛の情報屋が一番強い気がしてきた。どんな人生送ったら、元王子様がここまでしぶとくなるのやら。まあ、オレとしては最高に頼れる従兄弟だけどね。短剣や毒の勉強の師匠でもあるから、尊敬してるけど。


「メンバー決まったのか?」


「うん、いつもの……ジャック、ノア、サシャ、ライアンかな」


 ジャック班のメンバーを口にする。あの4人はずっとオレを助けてくれてるし、気心知れてて戦いの呼吸も合わせやすい。後ろからベルナルドの必死の声が被さった。


「我が君、護衛にお連れください」


「あ、ああ。ベルナルドも」


 ほっとした様子のベルナルドを見ながら、レイルががしがしと短い髪をかき乱した。


「くそっ、次々と誑し込みやがって」


「レイル。オレをビッチみたく言うな」


「……節操なし、合ってるじゃねえか」


 今までに味方に引っ張り込んだ連中の名前を羅列され、オレは反論できないまま「節操なしですんません」と謝る羽目になった。

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