333.戦う準備はぬかりなく(2)
安心材料としてのピアスだが、実は持ち主の片方が死ぬと割れる。その効果については言わなかった。まずあり得ないし、妙なフラグになると嫌だから。
ベルナルドやじいやに、皇帝陛下の護衛を依頼して部屋を出た。収納に大量の武器も食料も入っている。官舎に戻る必要はないので、そのまま騎士団がある棟へ向かった。
「シフェル、リアの護衛にクリスを回してくれる?」
「どこへ行くのですか」
見透かすような言葉に、にやりと笑った。
「害虫駆除。先日襲ってきた奴の残りを片付けてくる」
「手が足りないでしょう、同行します」
「要らない」
傭兵の大半が南の国へ移住した。そのため新しく孤児院から増員するまで数が足りない。そう指摘され、オレは首を横に振った。正直、騎士なんて寄越されても足手纏いだ。
「キヨ?」
「あのさ、自分で動けない手足は要らないし、今回の戦闘だと守ってやれないから邪魔」
本音で言い切った。傲慢に聞こえても構わない。実際、今回は守ってやれる保証がなかった。相手の実力が不明なのだ。シフェルやクリスティーンを相手取って勝つ程度の強さしか手がかりがない。何の魔法を使い、どんな戦い方をするか。
この状況で聖獣以外がオレの戦力になるのは無理だった。彼らは傷つけば影に逃げることが出来るから心配しない。結界を張りながら戦う余裕がある相手だとしても、面倒臭いのが本音だった。こういう部分が、ぼっちの要素なんだろうな。
「……私単独で同行を申し出ても?」
「出来たらリアを守って欲しいけど」
「これでも赤瞳の竜を抑える実力者です」
「じゃ、シフェルだけ」
今の言葉で、シフェルが何を心配しているか気づいた。オレが暴走した時、それを止める誰かが必要だろう? そう問われたのだ。実際、聖獣達は止めないと思う。だからシフェルが必要だった。レイルでもいいと思うけど、能力的に竜属性の方がいい。間違ってレイルを殺したら、後悔しきれないから。実力で対抗できるシフェルなら安心だ。
「敵の居場所は判明していますか」
「ブラウが情報持ってきたよ」
聖獣に手傷を負わせる相手で、現在は西の国との国境にいるらしい。そこまで説明し、シフェルの腕を掴むなり転移した。
「っ、乱暴ですね」
眉を寄せて目眩に耐えたシフェルへ、肩を竦めた。
「だって、こっそりクリスがついてこようとしたんだもん」
シフェルの後ろに回り込み、転移に便乗しようとした。オレの転移が桁外れの人数を運べるとしても、危険な行為だ。それに彼女には、リアの着替えや風呂の警護をしてもらわないと。戦える女性で、さらに信用できる人は貴重なんだから。
「それは叱れません」
「だろ?」
互いに愛する人を安全な場所に置きたい。ここは利害が完全に一致した。手を挙げてぱちんとタッチすると、オレはゆっくり振り返る。数メートル上空に、痛々しい……厨二的な意味で本当にイタイ奴が浮いていた。
「お待たせ。オレの留守に嫁の居城へ手を出した罰は、受けてもらうから」
長い前髪が鬱陶しい男は、シフェルを見て思い出したらしい。すでに銃を手に構えたシフェルへ先に声をかけた。
「また負けに来たのか?」
「うーん、ここで主人公を無視して盛り上がる辺り、さてはお前モブだろ」
びしっと指で顔を指し示す。失礼? そんなの承知の上だ。指摘するじいやは置いてきた! 準備は完璧だと思ったら、シフェルが後ろから指摘した。
「キヨ、品のない言動は謹んでください」
「お前っ! どっちの味方だよ?!」
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