160.誤解が誤解を招くよね(2)

 机を叩いて盛大に抗議する。そのせいで、寛いでいた傭兵達の注意を引いてしまった。


「どうした?」


「それがさ、ボスが女の裸絵を買ったとか」


「マジかよ!」


 ざわつく連中の口から、恐るべき誤解が飛び出した。


「そんなわけねえよ」


「ああ、だってボスは」


「「「「男が好きなんだろ(から)」」」」


 目を見開いたクリスティーンが、すがりつくリアムをオレから引き剥がした。ちょいまて、おい。なんで戦時中の噂が真実の如く伝わってんだよ。


「いや、それは絶対にない」


「皇帝陛下が好きなんだから、そうなんじゃねえの?」


 面白がって笑ってたレイルが、泥舟だが助け舟を出してくれた。沈みそうな舟だけど、これに飛び乗るしかない。


「皇帝陛下が好きだよ。それが悪いかっ!!」


 開き直ったオレに、傭兵連中が口笛を吹いて拍手喝采だった。くそっ、コイツらの誤解のせいで、カッコ悪い告白になっちまったじゃねえか。


 イライラしながら振り向くと、リアムは真っ赤な顔で口元を押さえていた。そしてクリスティーンの親指がぐっと上がる。よく言ったと褒められた感じか。護衛騎士としてはどうかと思うけど、彼女は事情を知ってるからな。


「騒がしいですが何かありましたか」


「……キヨ、後でお話を聞かせていただきましょう」


 ウルスラとシフェルが揃って入り口から入ってくる。貴族らしいキラキラしい連中が、この殺風景でゴツいおっさんばかりの空間に似合わない。騎士服のシフェルはともかく、ウススラは珍しくドレス姿だった。執務中はいつも騎士服に似た男装だったので、意外性に目を瞬く。


「ウルスラ、今日は休日だったのか」


 リアムがにっこり笑って話しかけたことで、彼女の休日用私服だと分かった。なるほど、女性なのだから家でドレスやワンピースなのは普通だ。しかも侯爵家の当主で……ん?


「ねえ、ウルスラはご令嬢なの? それとも御当主?」


 こそっとリアムの耳元に口を近づけて尋ねた。真っ赤な顔で「当主だ」と答えてもらう。リアムがめっちゃ可愛い。人目から隠すために、そっと彼女を背中に押しやった。上着の裾にぎるの、マジ可愛いぞ。


「ご無沙汰しております。ラスカートン前侯爵ベルナルド様」


 ウルスラは優雅に裾を摘んでお辞儀をした。洗練された仕草に、傭兵連中が見惚れる。ちょっとキツイ感じがする女性だけど、心遣いは素晴らしいし貴族女性として立派な振る舞いができる人だ。傭兵への偏見もないようで、ちょっと安心した。


「此度は愚弟が迷惑をかけたようだ。すまない」


 言葉遣いは上から目線に聞こえるが、ベルナルドは素直に頭を下げた。ところで、いい加減エプロンはずせ?

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