17.教育は情熱だ!!(3)

 当初の嫌がらせはそれで間違いない。だが予想外の事態が発生して、予定は変更された。


「だけどシフェルに液体をかけた直後、隣のクリスに気づいた。無関係のクリスに火傷を負わせるのは気が引けて、かける液体を水にしたか。かけた直後に気づいて水に変換したか……」


「すごいな! キヨ、大当たりだ」


 喜んでる場合じゃないぞ、ライアン。シフェルのイイ笑顔が黒くなってきた。上司としてここはオレが頭を下げて……許してもらえるだろうか。


「ごめん、シフェル。迷惑をかけた」


「おや? 背中の傷は良いのですか」


 意地悪な言い方をしているが、傷を知って気にかけるあたりがシフェルらしい。悪者になりきれないのだ。本当に悪い奴なら傷の話なんかしないで、オレを一方的に責められる立場なのだから。


 水浸しの室内は少し寒い。背筋がぞくぞくするのは足元が冷えただけじゃなく、熱が上がったのだろう。

早めに引き上げないと、また醜態しゅうたいさらしそうだ。


「あれは授業の結果。早朝の訓練でしたケガと同じだろ」


「なるほど。陛下から何か聞きましたね」


 勘のよさも健在のシフェルに肩をすくめて正否を避けた。


「ほら、ジャックも」


「「「すみません」」」


 全員潔く頭を下げる。素直な様子に何を思ったか、シフェルはブロンズ色の髪を無造作にかき上げた。ぽたりと水滴が床の絨毯に吸い込まれる。


「謝罪を受け入れます。それよりキヨは身体が辛いでしょう」


 シフェルの指摘に、ジャックとライアンが心配そうに覗き込む。身長差があるせいで屈む形になるのがしゃくだが、こればかりは仕方ない。


「怠いかも」


 ここで見栄を張っても意味がないので、体調不良はしっかり報告しておく。あたふたしたジャックが「大丈夫か?」と太い腕で抱きかかえた。お姫様抱っこじゃなくて良かった。肩にあごを乗せて縦抱っこされながら、安堵の息をつく。


「「「失礼します」」」


 ばっちり敬礼して部屋を出る傭兵3人に、オレは声に出さず心の中で呟いた。

 

 ――しばらく、こいつらはシフェルに頭上がらねぇな。シフェル最強伝説じゃね?

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