12.淡い自覚(8)

 オレの人格を間違いなく疑われるレベルの妄想が、脳裏で踊っていた。もう少し大人の外見になったリアムが涙を浮かべて、破かれたシャツをかき合わせながら、助けを求めてオレの名を……。


 いけない。これ以上は、鼻血出る。それ以前に不敬だし、何よりリアムは同性だ。


 そういう腐った趣味は断じてない――断じては取り消そう。もし両思いになれたら、腐るかもしれん。目の前の美人に迫られたら、断れずに腐る自信はある。


 流されて異世界来ちゃうくらいだ。誇り高かったり、意地を張る余地は一切ない!


 胸中の情けない断言を誤魔化すように、外面は整えておく。


「……そっか、オレのいた世界では国民皆殺しはなかったけど、他の国の人間で人体実験したりして数十万単位で殺した話とかあったから」


 卍模様の連中とか。物騒なたとえに眉を顰めたリアムは、ごくりと喉を鳴らした。顔色が青ざめたのがはっきり分かる。


「怖い……世界だった、んだな」


「まあ過去のことだよ、少なくともオレが生まれる前の話だけどね」


 ひらひら手を振って、物騒な話を薄めておく。ついでに頭の中のえっちぃ妄想も追い払った。


 話が一段落したと判断したのか、絶妙のタイミングで新しいカップに交換され、お茶が注がれた。見た目は紅茶の琥珀色だが、香りは別物だ。記憶の片隅を必死でつついた結果、中国茶の一種だろうと当たりをつけた。


「これ、紅茶じゃないね」


 指摘して口に運ぶ。この香りは……烏龍茶?


「烏龍茶みたい」


「よく分かったな。最近お気に入りのお茶だ。ところで”烏龍茶”というのは、これの名か?」

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