243.空き巣じゃないからな(3)

 みんな、駆け降りるのは早かった。ちなみに途中で足を踏み外したオレは、お約束すぎる展開で階段の真ん中に落ちた。尻を打って痛みにのたうった結果だが、途中で追いついたスノーに首根っこを掴まれ、緩やかに着地する。


「助かった」


『主様、僕は優秀です』


「あ、うん。それって自分で言っちゃダメなやつだと思う」


 人に言ってもらってこそ価値があるセリフだぞ。胸を逸らして「えっへん」ポーズのチビドラゴンを撫でてやり、上を見上げた。階段から降りたノアが、手足を掴んでオレの無事を確認する。それから立たせてもらい、埃を叩かれた。


「地下に流れ落ちたようです。面倒なことを」


 ぼやきながら、今度こそ下にある受け皿になった部屋に向かった。住人がいない城を勝手に歩き回るのって、空き巣みたいだな。


 今度は地下の鉄扉を開く。あれ? こっちの方が厳重に保管されてる気がするけど。気づいちゃいけない何かなのか? 


 誰も指摘しないので、そのまま一緒に部屋を覗いた。


「っ!」


 黄金と宝石がざっくざく! そんな光景が広がって――なかった。広い部屋の真ん中に、ちょろっと山があるだけ。しかもひとつ。絶対に誰か着服しただろ。逃げた王族や侍従が持ち逃げしたとか。国家予算より少ないじゃん。両手を広げた幅で、オレの身長より低い三角錐しかない。


「この国ってさ、王族が独裁状態で好き勝手したんだろ? 巻き上げた金はどこ行ったのさ」


 王族が不在の城で、誰かが着服したんじゃないか。そんな疑惑を口にしたオレに、アーサー爺さんは安心した様子で微笑んだ。


 嫌な予感がする。これは聞いちゃいけない類か。


「よかった。さほど減っておりませんな」


「「は?」」


「他国と違い、ここの連中は食って飲んで、女に使ってしまいますのでな。私が宰相だった頃より多少減りましたが、予想より残っていて安心しましたぞ」


 はっはっはっ……笑って黄金を数え始めたアーサー爺さんの背を見ながら、オレは顔を引き攣らせた。


「これだとオレの個人資産の方が多くね?」


「俺らの貯金を合わせたら、半分くらいか」


 ジャック班は二つ名もちばかりだから、意外と金持ちらしい。全員の貯蓄を合わせたら、東の国の宝物庫の半分もあるのかよ。いや、そうじゃない。宝物庫が広いのに中身が少なすぎた。


「財政の立て直しから、か。こりゃ先は長いな」


 オレ、本当にリアムのところに帰れるんだろうか。嫌なフラグがひらひらとはためいた幻影を振り払うように、首を大きく横に振った。

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