221.余計なお世話ってやつか(2)

「不安なら、こうしようか」


 顔を見て話をするのは辛いだろうと後ろから抱っこしたが、不安が大きすぎて反応が見えないのも怖いのだろう。ぬいぐるみサイズのマロンをくるっと反転させた。姿勢を直して向き合い、顔を見ないよう胸に彼を抱き込む。


『人の姿でもいいですか』


 抱きつきやすいのかな? 好きにしたらいい。


「マロンが好きな姿で構わないよ」


 許可を出せば、マロンは見せたことのない少女姿になった。栗毛の少女はやはり7〜8歳に見える。これって、あれかな。前の主人の姿とか。オレの姿の時もそうだけど、マロンが幼い子供の姿を取るのは、それだけ精神年齢が低いから。不安定な子供は、大人の姿を維持できないのかも。


『これ、あの人の姿です。嫌ですか?』


「いや。平気だよ」


 やっぱり、そうだと思った。そのまま少女姿のマロンを抱きしめる。栗毛の頭頂部にキスを落とし、正面から抱きしめあった。小さな手を精一杯のばし、子供の腕が背中に触れる。


『僕の背に乗せたあの人は、飛び出した魔狼に驚いて滑り落ちました。落下した先に大きな石があって……腰を強くぶつけてしまったんです。僕、治癒が出来ないから……っ、だけど』


 必死に頑張ったのだ。マロンに出来る限りの手を尽くした。魔狼を蹴飛ばして撃退し、痛みに呻く主人を背に乗せ、必死で走った。人がいる場所に行けば、きっと助けてくれる。彼女が保護されている南の国に駆け込んで……。


 説明の言葉は途切れた。泣き出したマロンの涙が、シャツに染みてくる。温かい涙はすぐに冷えて、マロンの気持ちのようだった。泣き顔を誰にも見せないよう、しゃくりあげながら抱きつく幼子の背を叩く。軽いリズムをつけて、鼓動の速さが一番落ち着くんだよな。


 ぽんぽんと背を叩くリズムに、マロンは鼻を啜る。ごそごそ動いて顔を見上げ、すぐに伏せてしまった。気づかないフリで、そのまま背中を叩き続ける。


『あの人は歩けなくなりました。僕のせいです』


「直接そう言われたの?」


 その人が口にしたのなら、なんて短慮なのだろう。聖獣である金馬と契約したんだから、信じてしがみつけばよかったのに。なんで手綱を離した? 森に入るのに、魔獣への心構えもなかったのかよ。


 当事者ではないからこその八つ当たりが、心の中に湧いて、ぼやきが溜まる。守ってくれるマロンの気持ちを踏みにじったのなら、そもそも聖獣の主人として器が足りてない。


 ――いや、オレも含めてだけど。


 話の感じからして、前の主人は南の国に保護された異世界人だろう。この辺はシフェルやウルスラに聞けば教えてくれるかな。


『ご主人様は……僕に、二度と……っ、会ってくれません、でした』


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