死霊魔術師
PHASE-546【ドヌクトスの周囲はバッチリ】
運転にも慣れてきた。
ハンヴィー以上の走破力を誇るJLTVの乗り心地は最高だ。
独立懸架サスペンションからなる衝撃吸収はやはり大したもの。
助手席のコクリコだって安心して寝ている。
「というか、コイツ寝てばっかだな」
「流石に今回は大変だったからね」
だからなぜシャルナが助手席ではないのか。残念でならない。
広く使える後部座席で寝てほしかったね。
アホみたいに涎垂らして寝てるけども、コイツが静かなのはいいことではあるな。五月蠅いのは困るし。
――――ドヌクトスへと向かう間の宿泊は、俺がギャルゲー主人公の家を召喚し、そこに女性陣と子供たちが宿泊。
男性陣は地龍のクリエイトからなる土壁の家屋で雑魚寝だ。
屋根があるだけありがたい。
密集しているので俺としては車中泊でもよかったんだけど、協調性がないと協力関係にはなれないから、亜人の野郎共がひしめく中で寝る。
ランシェルはギャルゲー主人公の家で寝られるという不思議。あいつ男なのにな。
「お!」
「何か見えてきましたね」
航海中とこの陸路の移動中、しっかりと寝て、しっかりと食べたコクリコは体力が完全復活。
車内に騒々しさが復活する中、先頭を任される俺たちの前方に人工物が複数見えてくる。
「ゲッコーさん。速度を落としてください」
『こっちでも確認できた』
運転中のイヤホンマイクでのやり取りはなんかいい。
格好いいと思えてしまう。
などと考えつつも、
「一つしっかりとしたテントがありますね。普通は周囲のような円錐型のティピーテントがお手軽で、旅のお供として最高なんですが」
「お前は一人旅の最中に使用してたのか?」
「この格好で分かるでしょう」
ワンドと雑嚢を見せてくるコクリコ。
やはりコイツは家屋に忍び込んで寝食をしてたんだな……。
コクリコの言うように周囲の簡素なテントとは違い、立派な大型の野営用テントが中央にドンと構えている。
なめし革からなる三角屋根のテントのデザインは、なめし革の色がモスグリーン系なら、間違いなく軍人が指揮所に使用しているようなデザインだった。
「こんな所で野営って妙だよね」
と、シャルナが警戒するけど、無用だろう。
車両のエンジン音が聞こえれば、テント内から悠々と出て来るのは、目出し帽の頼れる方々。
多分だけど、随分と前から監視されてたんだろうな。
方々を目にした瞬間、本当の意味で俺たちは安息の地に到着したんだと実感する。
停車してから、
「お久しぶりです。無事、帰ってきました」
「長旅、ご苦労様でした。運転も出来るようになったようで」
「ええ。で、ここで何を?」
率直に質問すると同時に、後続のゲッコーさんがトラックから降りてくれば、目出し帽の方々、つまりはS級さん達が敬礼。
「変わりは?」
「ありませんドム」
――――S級さん達はドヌクトスの四方に野営地を展開し、魔王軍、特に
野営地にはS級さんが数人と、ドヌクトスの兵士たちが常時百人ほど配置されているそうで、城郭都市であるドヌクトスを囲むように、十カ所に野営地を展開しているそうだ。
冒険者にも協力してもらっているそうで、この周辺では現在、魔王軍の行動は見られないとのことだった。
「なにも用意してやれなくて申し訳ないです」
ここまでしてくれるなら、普通にゲーム内から車両を召喚していればよかった。
野営地にあるのは馬車と馬。他の野営地と連係がスムーズに行えるように車両は必要だっただろうな。
配慮が足りなかった。
「いやいやお構いなく。ある物を利用して最大限の成果を出すように励むのが我々の考えだから」
と、格好良くフォローしてくれる。
この世界での移動手段をうまく扱うことが、臨機応変に対応できる事に繋がるそうだ。
有ると知っていても、その場に無い物をねだっていては、作戦立案に邪念が入るという事だそうだ。
それに連絡用にと、侯爵が各野営地に数頭の駿馬を配備してくれているということだった。
ありがたいね侯爵。
「さぞかし政務に励んでいるんでしょうね」
「ああ、励んでいるが、相談で会う度にメイド達を常に侍らせているのはね……」
「な! かなりの女好きだなあの侯爵。仕事はこなすけど、同時に鼻の下が伸びまくってる」
「わからんではないけどな。揃いも揃って美人ばかりだし」
S級さん達が呆れるくらいに、侯爵はサキュバスメイドさん達の虜のようだ。
完全にチャームにかかっていると言わざるをえない。
別段サキュバスさん達もチャームを使用しているわけではないんだろうけど……。
勝手に侯爵がかかっているだけなんだろうけど……。
聞かされれば聞かされるほど、ゼノは体を乗っ取るような事をしなくてもよかった。
コトネさん達の色香で十分に侯爵は操られたと思う。
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