PHASE-404【俺が盛られていたのを知っていた件……】

「あの状態から逃げ果せるとはな」

 むしろ隙を突いて逃げ果せたランシェルちゃんを称賛。

 武力のパラメーターがカンストオーバーしているベルから逃げるんだからな。ランシェルちゃんって凄い子なのかもしれない。


「――――で、どういうことです」


「なんだ? 後を追わないのかって提案じゃないんだな」


「付き合い長いですからね。二人が追跡もしないで余裕を持っているって事は、保険があるんでしょ。追跡が得意となると、この場にいないスカウトのシャルナが保険ですかね」


「やるじゃないか。冷静に状況を判断出来ているな」

 伝説の兵士に褒めてもらえば、素直に嬉しくなる。

 ランシェルちゃんが俺の命を狙ってたのはショックだったが……。

 いや、まだ狙っていたとは限らない。もしかしたら夜這いっていう可能性も考えられたんじゃ!

 ――……この二人が動いた時点でそれはないな……。

 

「いつから怪しんでいたんですか?」

 監視カメラなんて仕掛ける時点で、それ以前から怪しんでたんだろうし。


「簡単だ。謁見の間での朝食時に出されたハーブティーだ」


「俺、ガブガブ飲んでましたけど」


「一口飲んで、命に関わる物じゃないから問題ないと判断した。で、怪しむついでに、トールを利用させてもらった」

 ひどくねえ!

 さらっと言うところに恐怖を感じるわ!


「そんな顔をするな。命の危機に瀕したらもちろん助けるさ。が、どうも命を奪うという気配はなかったからな。そのままお前を出しにして、相手の動きを窺いつつ、俺たちは屋敷内を調べていたわけだ」


「探検ってやつですか」

 鷹揚な首肯。


「ハーブティーには何が混入していたんです?」


「独特な風味の奥に隠された渋味は、アヤワスカに似ていた」


「あやわ……すか?」


「シャーマンが使用する調合茶だ」

 ごめん。よく分かんない。

 そもそもシャーマンは実際にいるのは知っているけど、ファンタジーの世界の方が強いイメージなんだよね。

 むしろこの世界にいた方がしっくりくる。

 

 で、そのシャーマンが飲む調合茶がアヤワスカという名だそうだ。

 調合茶の使用理由は、トランス状態になるため。


 幻覚性のある飲み物だから、それに使用する植物があると踏んだゲッコーさんは、ベルとシャルナを連れて庭園なんかを調べていたらしい。


 アヤワスカに使用するバニステリオプシス・カーピという蔓植物に、サイコトリア・ヴィリディスという低木。それらに似た植物を庭園の片隅で見つけたそうだ。

 ここで大活躍だったのが、森の賢人であるエルフのシャルナ。植物の効果は、俺の世界にあるアヤワスカに使用する植物と酷使したものだったらしい。

 

 さっきも説明していたが、一口を口に含んだ限りでは、薄められて強烈な中毒性はないと判断したゲッコーさんは、そのまま俺にそれを飲ませて、相手の動きを探るために利用したわけだ。


 本来のアヤワスカは苦味が非常に強く味もひどい。飲むことが苦行と得意げに言ってくる男の名は、ゲッコー・シャッテン。

 アンダーヘブンの指導者であり、多くの同志とS級兵士百人の頂点に立つ男。

 ――……恐ろしい。げにまこと恐ろしい男ですよ。ゲッコー・シャッテン!

 

 一応シャルナが解毒魔法を使えるから問題ないという判断もあったから、実行に移したらしいのだが……。

 だがしかしだ。


「げにまこと恐ろしい男ですよ」

 今度はしっかりと口に出してやった。

 どおりで俺はあのハーブティーを飲みたいという衝動に駆られるわけだ。

 俺、ちょっとした中毒者になってるんじゃないの……。


「だがこれで全てが白日に晒される事になるぞ。よくやったな勇者」


「勇者って言って褒めたところで、全くもって響きませんよ」


「…………さあ、身支度を」

 いや、話を誤魔化さないでいただきたいが、


「ゲッコー殿の言うとおりだ。早くしろ」

 余裕があっても、相手に迎撃の準備はさせたくないとの事で、急かすベルは間を取ってから――、再び口を開く。


「――――戦いだ」

 ――……やはりそうなるのか。

 このままの展開だと、俺はランシェルちゃんと戦うことになるのだろうか。


 俺はどうしてもあの子が悪い子には見えないし、思えない。

 お茶に幻覚剤を盛られてた時点で、見る目はないけどさ……。

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