PHASE-725【案の定おどろいてくれる】

「じゃあ行ってみようか。マイヤ、数頭の馬を準備できる?」


「直ぐに」

 別にJLTVを使用してもいいんだろうけど、瘴気が蔓延している地帯から移動するんなら、この時代の移動スタイルのほうがいいだろう。

 不思議な乗り物の能力とか思われるのも嫌だしな。

 ここは馬上の人になって、瘴気の中で深呼吸のパフォーマンスでもしてやりたい。

 

 ――程なくしてマイヤが戻ってくる。

 自身が騎乗する栗毛の馬とは別に、数頭の馬を引き連れて。


「じゃあ行きますか」

 騎乗すれば、先頭の馬車ではミュラーさんが馭者を務める。

 その隣では、ゲッコーさんがレミントンM870ハナマルを手にして腰を下ろす。

 正に助手席ショットガンってやつだ。

 馬車が進み出す前に、馬車内の侯爵、伯爵、北の使者。それに馬上の人であるマイヤにガスマスクを装備してもらう。

 侯爵は慣れていたけど、三人は独特な臭いがやはり気になったようだ。

 

 ――――戦場経験のある伯爵とマイヤはこれよりも酷い臭いを経験していると言い、慣れるのは早かった。

 使者は時折、マスクの奥でえずいていたけど気にしてはやらない。

 独特な臭いがあるものの、マイヤは好奇心からか瘴気の中で深呼吸。


「――めまいや気分の悪さに襲われない。本当に瘴気の影響を受けないようですね」


「後はマスクが外れないように気を付けといてね」


「分かりました」

 普段は冷静なマイヤだが、瘴気の中を移動出来るという感動からか、テンションが若干だけど高いように見えた。


「相手の驚く顔が楽しみですな!」

 馬車の窓を開いて俺へと語りかけてくる伯爵の声は、悪戯を考えている子供のよう。

 マイヤとはまた違ったテンションの高さだった。


 ――――まあそうなるよな。


「流石に手薄とはいえ、展開はするよな」

 瘴気エリアから出る手前。糧秣廠の物見櫓からも目視が容易いところまで接近すれば、内部より兵士たちが慌てて出て来ると隊列を組む。

 周囲に展開している者達を呼ぶよりもそっちが早いもんな。

 でも、お世辞にも隊伍とは言えない乱れのある隊列だった。

 隊列は乱れたものだが、ガシャガシャとした金属音は中々の迫力ではある。

 生半可な利器では致命傷にならないようなしっかりとしたブレストプレートと――、


「先ほどのビジョンでも兵士の装備は見てましたけど、やっぱりハットみたいな鉄兜ですね」

 全周にツバの付いた鉄の帽子。


「ウォーハットやケトルハットという兜だ」

 助手席のゲッコーさんから教えてもらう。

 公爵領の兵士たちの一般的な装備は、レザーアーマーにケトルハット。

 上級兵士となればブレストプレートとケトルハットという組み合わせ。

 頭部の守りは統一されているようだな。

 兜同様に統一されているのか、鎧の隙間から見える鎧下着の色はオレンジカラーと派手である。


「金のかかった装備じゃないか。これだけの統一された装備を揃えて、尚且つ兵の数も多い。力を持っているのにそれを王都のために使ってくれなかったわけだ」

 感心もしつつ同時に皮肉も出て来る。


「何者か! なぜ瘴気の中を無事に移動出来る! 止まって答えよ!」

 一人の兵士が誰何と警戒。

 手にした槍の穂先はしっかりと俺たちに向けられている。


「馬鹿なのか? この馬車を見れば分かるだろう。お前たちのところの馬車だというのも分からんのか?」


「だ、黙れ!」


「なにぃ」

 ガスマスクを装着しているから、窓から頭を出しているのが伯爵だというのが兵士には分かっていない。

 そもそも下っ端の兵士だと、伯爵の素顔を見たところで分からないだろうけど。

 

 独特なデザインのガスマスクに、向こうの兵士たちは異形の者と判断したようだ。

 加えて人間なのに瘴気の中を普通に移動している俺たちもいるから、余計に怖がっている。

 有言実行とばかりに、俺は馬上で大きく腕を広げて深呼吸をしてやった。

 俺の所作に顔を引きつらせながら、隣に立つ魔術師らしき者に耳打ちをしているブレストプレートの兵士。

 上級兵士と魔術師の口は動いているが、声までは聞き取れない。


「結界魔法を使用しているのか? いや、その様には見えない。と、言っていますね」


「読唇術ってやつだっけ?」


「はい」

 口の動きだけで会話を理解するなんて凄いぞマイヤ。流石は元ローグ。

 魔王軍の拠点に忍び込んで破壊工作をしたり、悪党のとこに盗みに入り、弱き人々に物資や金品を配る義賊みたいな事をしていた美人様は、特殊なスキルに秀でている。

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