PHASE-591【少数対多数も慣れたもんさ】

「構え――放て」

 一体のリッチ指揮の下、スケルトンアーチャーの矢が放物線を描きながら俺たちへと向かって矢の雨を降らせる。


「その程度」

 アルトラリッチの魔法は驚異だけども、普通の矢なら俺のイグニースで十分。

 全てを防ぎきったところでイグニースを解除。

 と、そこに多彩な魔法が直線上に飛んでくる。

 俯瞰から見れば、一点に向かって飛んでくる魔法は、中央がヘコんだ扇のような線を描いているかもしれない。


「油断しない」


「ありがと」

 俺が防がなくてもシャルナが防いでくれる。

 スケルトンキャスターが使用する魔法は、ファイヤーボールにウォーターショット、クレイショット、ウインドナイフなど。ファイヤーボール以外は聞いたことのない初期魔法をシャルナに説明してもらう。

 初期魔法とはいえ、アンデッドの軍勢が使用するってのは驚異だ。

 倒してもアルトラリッチが魔法を使用できる連中を再度、呼び出すことが出来るかもしれないからな。

 当の本人の魔法だって、次元の違う威力だし。


「こりゃ本当に強敵だな」


「何を今更」

 ゲッコーさんが迫ってくる敵陣に向かってM60を使用。

 弾帯が激しく波を打ち、次々に7.62㎜を吐き出していく。

 最前列のスケルトンソルジャーが持つラージシールドは、木製と金属と革の複合シールド。

 殆どが木製で出来ているから、着弾すれば木っ端を舞わせながら大穴が空き、兜や鎖帷子で出来た頭巾など無意味とばかりに頭を打ち抜かれていく。

 7.62㎜の威力は対スケルトンには有効のようで、バタバタと前衛のスケルトンソルジャー達が倒れていった。


「小賢しい」

 と、一体のリッチの苦々しい声が聞こえてくれば、


「ほう」

 ゲッコーさんがトリガーから指をはなす。

 スケルトンキャスターとちがって、リッチともなればシャルナほどではないけど、俺と行動をしていた時のタチアナ以上のプロテクションは展開できるようだ。

 半透明の大きな壁が複数枚現れ、隊列を守っている。

 複数ということは、一体ではなく数体が使用しているってことだろうな。


「まずはあのリッチ達をどうにかしないとな」

 相手が魔道師系なら俺やベルが接近戦で仕留めるしかない。

 とはいえ、十重二十重な分厚い陣を正面からやぶってリッチまで向かうのは難しいだろう。


「では出るぞ」


「うん。少しは周囲のことも考えて」

 チートさんは全てを一人で解決できるから問題ないみたいな感じで勝手に突き進むから困るよ。

 実際にベルならスケルトンソルジャークラスが十万くらいても問題ないだろうけど。

 本来の力があるなら、百万と対峙したとしても倒せそうだよな。


「へ~攻めてくるのね」


「凄いよね~」

 おっとここでオムニガルも参加。

 柱の窪みに座っているアルトラリッチの横で、宙に浮いてこっちを眺めている。

 二人揃って高みの見物。

 アルトラリッチが見物にシフトチェンジしてくれるのはありがたい。

 凶悪な攻撃魔法は飛んでこないからな。

 その強者のゆとりを利用したいところだ。


「そら行ってこい」

 ここでゲッコーさんが俺たちの掩護のために、回転式弾倉であるグレネードランチャー・ダネルMGLを使用。

 リッチのプロテクションは壁のように前面に展開されているもの。つまり上はがら空き。

 しかもプロテクションは守りには適しているけど、前面に展開すれば壁となって行軍も中断される。

 その間に俺とベルが距離を詰める。

 上方から放物線を描いてきたグレネードの爆発が数回発生。

 正面からわざわざぶつかる選択はせず、爆発に乗じて側面に回り込む。


「なんだ!?」

 リッチが爆発に驚く中、


「ああいう兵器だ」

 と、淡々と返すベルは、いつの間にか陣形の中に突撃してリッチ一体を炎で灰燼へとかえた。

 早いな。流石はベルといったところか。

 おかげで後衛は混乱している。

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