PHASE-590【今回はちゃんと陣形組んでる】

「やるじゃないの。じゃあ次は――」

 足を組み直しつつ、


「フロックエフェクト」

 と、嫌な魔法を継いでくれる。

 もちろんその後に続く言葉はファイヤーボール。

 バランスボールサイズのが今度は二つ……だ。


「あの火力を二つ同時は無理かも……」

 流石のハイエルフでも眼前のデカいのを見せられれば弱気。

 ただのノービスのはずなのに。


「させん」

 あちらが放つ前にゲッコーさんのSG552から弾丸が数発。

 ――チュンチュンと音を立て弾かれる。安定の魔法障壁が、アルトラリッチの前に展開されていた。


「ずっと見ていたけれど、おもしろい武器を使うわね。意味は無いけど」


「手厳しい」

 声の調子からして、ゲッコーさん若干だけど落ち込んでおられる。

 現代の銃器であっても、魔法の前だと頼りない物も出てくる。


「この程度で驚かないで対応してよ――ね!」

 声と同時に二つの大きな火球が放たれる。

 どうしよう。スプリームフォールで一気にやるか。でも下手したら大波が俺たちの方に来るだろうし……。ねだっても仕方ないと分かっていても、リズベッドの存在が頭をよぎる。

 南無三とばかりに構えて唱えようとした矢先。

 俺の横を風が走る。

 

 軽やかな風は、


「ふん」

 赫々たる剣を二度振る。


「な!?」

 得意げに笑んでいたアルトラリッチの表情が驚きに変わる。

 座っている状態から上体を前のめりにして、目の前で起こった事象を凝視している。

 俺たちも信じられないと思っているけどね。

 ベルの浄化の炎を纏ったレイピアが巨大なファイヤーボールを斬れば、爆ぜるこなく消滅。

 火球を斬ったレイピアに吸収されるように消滅した。


「さて、この程度で驚かず対応してみてはどうか――な」

 痛烈な皮肉。

 アルトラリッチの発言を真似てのカウンターパンチ。

 これには常にマウントを取っていたアルトラリッチも苦笑いで返していた。


「凄いのがいるじゃない。でもいくら凄くても死地よ。残念だけどさようなら。ブラックコフィン」

 唱えればベルの足元から黒い柱が立ち上がり、一瞬にしてベルを呑み込んだ。

 まるで巨大な棺桶のようだった。


「超重力の棺よ。入った者はその姿を維持できない。ただの肉へと姿を変えるわ」


「ベル!」

 反則的な重力魔法。それを直撃とか……。


「折角の美人だったけどごめんなさいね~」


「お前!」

 殺意というものをこの世界に来て初めて抱いたような気がする。

 残火に炎を宿らせ、許しを請うアルトラリッチをどうやって斬り屠るかを頭内でいくつもイメージしている俺がいる。

 自分でも信じられないくらいに、残酷で酷薄なイメージばかりが湧いていた。


「この程度でいちいち感情を高ぶらせるな」


「へ?」

 凛とした涼やかな声が黒い棺から聞こえてくれば、相対する高い位置にいる方からは、美人には不釣り合いな間の抜けた声が漏れる。


「この程度で私は縛られない」

 手にするレイピアで棺を両断。

 斬撃の威力は絶大とばかりに、高さにして十メートルを優に超える棺の上部から、竹を割るように真っ直ぐに亀裂が入り、そこからベルが悠々と出て来る。


「嘘でしょ……。上位魔法でも超上位で、大魔法寄りのブラックコフィンが……」


「知らん」

 棺を両断したように、アルトラリッチの驚きもすげなく斬り捨てる。

 強気な発言と無事な姿に胸をなで下ろす。

 そしてこの安心感。ベルの姿を見れば、数的不利な状況下だけどもちっとも不安じゃない。

 というか、ベルの姿に展開しているアンデッド達が心なしか呑まれているかのようにも見える。


「こんな存在が生者にもいるのね……。ならば!」

 一つのフィンガースナップが、力の間に響き渡る。

 アルトラリッチのそれを合図にスケルトンソルジャーを中心とした軍勢が動き出す。


「――――陣形は鋒矢ほうし

 ベルの圧に呑まれていたようで、一度、大きく深呼吸をする一体のリッチ。

 呼吸を必要としないだろうアンデッドが深呼吸ってのもおかしな話。それだけベルの一連の動作に、動いていない心臓の動悸が激しくなったのかもな。

 整えると、皮と骨だけの手で持つスタッフを前へと向ければ、主力のスケルトンソルジャーたちが足並みを揃えて行動。

 

 ――――俯瞰から見れば矢印の形に似た陣形へと変わったはずだ。

 

 最前衛にはラージシールドにグラディウスのような短い剣を持ったスケルトンソルジャー。

 その後列には槍を持ったスケルトンソルジャーを配置。ラージシールドの間から槍を突き出す。

 更にその後方にスケルトンアーチャー。

 アーチャーとは別に存在する、数は少ないけどもボロいローブを纏い、骨の手にワンドを握ったスケルトンキャスター達が、リッチ達と共に護衛のスケルトンソルジャーを伴って後衛に陣取る。

 陣形が完成すれば、重厚な盾からなる壁が、俺たちへと向かって足を動かし始める。

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