PHASE-1033【ドリルブロッコリー】
「そしてここから先が、我ら
道なりに進んでいくこと一時間と少しといったところで、中心地となる区域に入る。
馬の速歩で一時間程度だから、この国の広さはそこまで広くないとみえる。
公都の場合、外周門からセントラルまで二日を要するから、それと比べるとエルフの国であるエリシュタルトは小国だろう。
まあ、あの公都と比べるのがよくないか。主の俺が思うのもなんだが、あそこはちょっとおかしい。
――再び巨木が連なった防御壁が眼界に入ってくる。
「上のエルフが住まうとなれば、この先に王様もいるんですか?」
「はい」
王様がいるって事は、この壁の先には城もあるんだろうから、防御壁ではなく城壁と呼称した方が正しいかもね。
意味的にはそこまで変わらないんだろうけどさ。
でも――、壁上から見える先は緑に覆われた自然なんだよな。
城なんて見えない。
「開門を頼む」
「はっ!」
番兵のエルフさんにルミナングスさんが伝えれば、直ぐさま門が開かれる。
「木製の門なんですね」
「ここだけでなく最初に潜った門も同様です」
「そうなんですね。でも火攻めをされると怖そうですね」
「ならば私が試してあげましょうか」
急に横から会話に入り込んでくるコクリコ。
馬車の窓からワンドの貴石を輝かせてくるあたり、コイツは本気でやりかねないので、
「ベル」
対応は素早かった。
名を口にすれば、窓から出していたコクリコの上半身は瞬く間に車内に吸い込まれていった。
ベルが馬車に同乗しといてよかったよ。
こういった時のベルは本当に俺とツーカーなんだけどな。
もっと深く繋がりたいもんだ。
「すみません内のメンバーが」
「いえ、勇者殿のお仲間ならば、さぞ素晴らしい魔法を使用できるのでしょう」
いえ、勇者殿のお仲間ですが、中位魔法までが精一杯のなんちゃらウィザードでございます。
「ですがこの門は並大抵の火炎系魔法では火を付けることは出来ません。それどころかその他の属性魔法でも、この門に傷をつけるのは難しいでしょうね」
「なるほど。木製ですが、材料となる木材がただの木材ではないんですね」
「左様でございます。この門は神木ミスティルテインからなるものですから」
おお! 聞いたことがあるヤツだ。
どこか忘れたけど神話なんかでお馴染みの名前だな。
確か宿り木だったような。
――この世界でもミスティルテインは巨木に巻き付く宿り木なのだそうで、巨木を養分として育ち、巨木が蓄えたマナと、自らも大気からマナを取り込んで育つという。
そういった特異な育ち方をするミスティルテインから出来た門は、物理、魔法に対する耐性が非常に高いそうで、鉄の門を凌ぐ強度があるという。
また巨木からなる城壁と防御壁にも同様の恩恵を与えてくれるという。
他にもエリシュタルトでは、人格や能力で選ばれた者達に、ミスティルテインからなる弓をエルフ王から与えられるという。
ルミナングスさんもその一人だそうで、馬の鞍付近に弦を張っていない弓が備わっていて、これがそうですと言いつつ俺に手渡してくれる。
――ふむ。
なんの変哲もないただの木製の弓だった。
凄みってのは伝わってこない。
こういった伝説級の弓ってのは、ゲームやラノベだとド派手な作りの代物が多く、目にしただけで強いってのが伝わってくるけど、これにはそれを一切感じる事が出来ない。
だからこそ逆に凄みがあるのかもしれんが。
見た目は普通、中身は伝説級ってことなんだろう。
そもそもエルフさん達の長命さを考えると、普段から使用している日用品にすら伝説級になりそうな品物がありそうだよね。
「さあ、どうぞ」
門が開ききるまでに見せてもらっていた弓を両手でしっかりと持ってから返す。
凄みは感じずとも、やはり伝説級となると取り扱いには緊張してしまう。
城へと続く門を潜れば――、
「お!? おおぉぉぉぉ――!」
目の前の巨大な存在のインパクトによって、弓を手にしていた時の緊張が一気に振り払われる。
なんだよ。壁上越しに見えていたのは、森なんかの自然じゃなかったんだな。
次には――、
「ドリルブロッコリー!」
と、大声で発してしまう。
スーパーなんかでたまに目にする、フラクタル構造からなるドリルブロッコリーの親玉が俺達の前に現れた。
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