PHASE-1032【樹上が生活の場】

「改めまして、いつも我が娘がご迷惑をおかけしております」


「本当よ」

 と、すかさずリン。

 まず俺が最初に返したかったんだけどな。しかもそんな不遜による発言ではないので……。


「何よ!」

 ね。こうなるんだもの。

 いつものようにシャルナが噛みつく。

 

「はい止める。お父さんの前だぞ」

 毎度のように俺が仲裁。

 前者は不敵に笑み、後者はぬうう! と、唸りつつ睨む。といったいつもの構図だが、今回は素直に俺の発言を聞き入れて直ぐに静かになるあたり、父親を前にすると勝手が違うようだな。


「本当に、ご迷惑をおかけしているようで……」

 やり取りを目にして、お父さんがまた頭を下げてくる。

 胃の部分に手を当てているのが見えた。

 ストレス持ちだというのが分かったよ――。


「さあ、お入りください」

 娘との再会の挨拶は後でしっかりするという事で、何よりも勇者殿を門から先へと迎え入れたいと言い、ここからはルーシャンナルさんがルミナングスさんに先頭を譲る。

 お偉いさん自らが案内をしてくれるようだ。


 やはり俺は人気者。


 で、門を潜ってお邪魔すれば――、


「やはり俺は人気者」

 ついつい心で思っていたことが口に出てしまう。

「勇者様~」や「新公爵様~」と、鈴生りになって俺の事を多方向から見てくる美しい顔立ちの方々。

 基本、黄色い声だ。

 なので俺のテンションは爆上がり。

 声に向かって手を振れば、黄色い声は更に勢いを増していた。


「お恥ずかしい限りです。勇者殿を樹上から見下ろしながら声を発するのですから」

 ここでも胃の部分を押さえるシャルナの親父さんことルミナングスさん。


「いえいえ、全くもって問題ないです。これだけの歓待で出迎えてくれる事に喜びで一杯です」

 これはマジでエルフハーレムありそうだな。

 誰にも見られないように顔を伏してほくそ笑む俺氏。


 それにしても――、


「霧は内側にも発生しているんですね」


「ええ、防御壁の内と外に展開しています。内側はしばらくすればしっかりと晴れますよ」

 鈴生りで歓声を与えてくれるエルフさん達を視認する事が出来るのも、青白い無数の輝きのお陰。

 出来る事なら鮮明な状態で歓声を受けたいね。

 今以上に嬉しくなるだろうからさ。


 ちなみにこの霧の効力説明をルミナングスさんからも受ける。

 ルーシャンナルさんの説明の時にも予想はしていたが、攻城戦になった時、霧の力が遺憾なく発揮され、攻め手側は始まる前から不利となる。

 霧によって攻め手側は視界不良の中を移動と攻撃を加えないといけないわけだが、この霧の影響下でもエルフは見渡すことが出来る。

 なので動きが鈍くなった攻め手側に対して、巨木が連なった防御壁からやりたい放題の攻撃が可能となる。

 しかも弓の名手であるエルフがそれを実行するのだから、攻め手側は為す術がないだろう。

 

 そしてえげつないのが、もし門を突破されたとしても、内側にも霧は展開しているので、そこでも矢の雨が降ることになる。

 それこそ今現在、鈴生りで俺達に歓声を送るエルフさん達の場所から矢が無慈悲に降り注ぐんだろうね。

 突破自体が難しい防御壁だが、突破後もただではすまないということだろう。

 これに加えて魔法にも精通した種族だからな。

 ここの攻め手にだけは回りたくないね。

 

 ――まずこの地のエルフさんがいないと、ここまで辿り着くことの出来ない樹海のような迷いの森。

 で、ようやく到着しても、霧で視界を奪われる中で遠距離攻撃によってフルボッコにされる。

 しかもそれを実行するのが弓術と魔法に精通するエルフときたもんだ。


 攻城兵器を投入されても魔法で直ぐさま修復も可能らしいし。

 この地には攻め入らないのが賢策。

 ――ってのが聞かされた範囲内での俺の総括。


 こういった能力に長けた者達が住まう国だからこそなんだろう。俺達なんかが想像できない程の長い年月において、この国は外敵からの脅威に晒されたことはないという。

 となれば、この大陸に置いてどこよりも平和な国だというのが分かるというものだ。


 ――鈴生りの歓声を受けつつ大通りを進んで行く。

 門の内側であっても、いたる場所に巨木が生えていることもあって、初めて訪れる側からすれば、正直ここが大通りだと言われても分からない。

  

 エルフの方々が樹上から挨拶をするくらいだからな。地面に居を構えることはしないのだろうから、地面の道は優先されていないってことかもな。


 見上げて見渡せば、巨木を利用したツリーハウスという童心をくすぐる建物だったり、巨木のうろにドアや窓を取り付けた家もある。

 トム・ソーヤーの冒険に出て来る家を思わせる小さな家がいくつもあった。


「この辺りはしものエルフ達が住むところです」


「下のエルフですか」

 ハイエルフがかみのエルフなら、下のエルフは普通のエルフってことのようだ。

 長い時を過ごすエルフであっても、そういった階級があるのは人間と変わらないようだな。

 まあ王様が存在する時点で、階級が存在するのは当然か。

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