PHASE-1265【契約】

 ――……力なく零してしまった台詞に対する皆さんの次の行動は……、俺と目を合わせないというもの……。


 唯一、先生だけは俺を見てくれたけども、提案を出してくれない辺り最善の策はないようだな……。


 無理もないよ……。

 

 深海都市へと行くにはフライング・ダッチマンが必要。

 その船の船長であるエーンザームってレイスは、大海のどこかを移動して逃げ回っているのでそいつを探すのはもの凄く難しい。

 何よりもその大海へと赴く為には南伐を実行し、蹂躙王ベヘモトが拠点としている土地を奪還し、深海都市および魔大陸への足がかりとするための策源地としなければならない。


 南伐による奪還のためには瘴気の浄化を行わないといけない。


 その為には残りの四大聖龍リゾーマタドラゴンの二柱の内の一柱どちらかの力を借りないとどうにもならない。

 

 借りたいが、一柱は深海都市に封じられていて、一柱は天空要塞に封じられている。

 で、その天空要塞も空の上を移動しているから何処にいるかも分からないときている……。


「攻略させる気ないよね!」

 不満爆発とばかりに地蹈鞴を踏んでしまう……。

 短気な姿は恰好の悪いことだっただろうが、不満を抑えることが出来なかった。

 RPGがどれだけ優しいか分かるというものだ。

 ヒントをもらって難敵を攻略し次へと移動。

 様々なイベントをこなしていってキーアイテムを手に入れ、ラスボスに挑むってのが大体のRPGだろう。

 この異世界にはそういった手順ってのがない。


「まあ相手としてはこちらに攻略させないように立ち回りたいのですから当然でしょうね」


「ですよね」

 俺と違って先生は冷静そのもの。

 この世界はゲームじゃないからね。相手からしたらこっちに対処させないって方法を取るのは先生が言うように当たり前の事だもんな……。


「何か妙案でもあれば……」


「あれば出しております。限られた移動手段しかない状況でそれが無いとなるとお手上げです」

 とは言うものの、先生の言い様からは焦燥感が見られないんですけど。


「皆もなにかないかな? 忌憚のない意見でもあれば口に出してくれ」

 何かしらの提案があるなら誰でもいいので聞きたい。


「トール」


「はい! コクリコさん。意見をどうぞ」


「こういった時のトールでしょう。相手が対処を難しくするのならば、それを超えるデタラメな対応を可能とする力を有している存在は――この世界においてトールだでしょうから」


「そんな事を言ってもな~」


「本来は不可能だった火龍を救い出したのだからな。この難局にも対応できるはずだぞ」

 と、ベルも続いてくれる。


「トールの可能性を信じるよ」

 シャルナからも励まされる。

 女性陣に期待されれば俺も応えたいけども……。

 潜水艦は十中八九ないし。どんなに高いところでも飛んでくれる神鳥的なのだっていないしな……。


 ワンチャン、デミタスに見せた力ならいけそうな気がするけども……。

 皆と行動となるとそれは違うよな~。

 ハインドなんかのヘリを利用するにしても限界高度ってのがあるだろうし。

 もし天空要塞がヘリの限界高度内だったとしても、要塞周囲が暴風によって守られているらしいからな。

 そこにヘリなんかで突っ込んだらハイそれまでよ……。

 

 まったくもって可愛げのない攻略対象だよ!

 

 ここでムキになれば堂々巡りなのは分かっているので、目の前の美人、美少女たちのためにも深呼吸でアンガーコントロール。


 ――で、コクリコに言われた事を真剣に考える。


「…………」


「トールが考え込んでます。期待したいですね」


「……そこまでの期待をしないでほしいなコクリコ」


「それで――、なにか妙案は浮かびましたか?」


「俺は本来、RPGは据え置きでしかやらない男なんだ」


「――何のことを言っているか分からんが、出来るのならば、でしかやらない――のではなく、別の物でも行うべきだったのではないか?」


「ベルよ。その言は全くもって正しい」

 この世界に来てから、そこは痛感している。

 もしプレイギアでファンタジー系RPGをプレイしていたなら、ファンタジーゲームのとんでも装備やアイテムを召喚することも可能だったのだからな。

 そうなればこの世界の攻略がとても簡単なものになったかもしれない。


 まあ、ベルやゲッコーさんを召喚していたと仮定した場合、間違いなくそういったモノを可能な限り使用させないというスパルタ縛りが展開されるんだろうけど。


「で、妙案があるとするならなんだ? どこでも運んでくれる伝説の生物なんかを出せるのか?」

 こういった時、現代知識を有しているゲッコーさんはRPGがどういったものなのかを理解してくれているから、やり取りが他の面々と違ってスムーズなのは本当にありがたい。


「伝説の生物とか召喚できるのですか!?」


「凄いねトール!」


「ドラゴンとかですかね」

 と、コクリコとシャルナが興奮するけども、


「そんなんじゃないよ。そもそもそんなのが召喚できるなら以前からやってるから」


「「それもそう」」「ですね」「ね」

 語末だけは合わせられなかった二人だけども、伝説の生物を目にすることが出来なくて残念な表情を作る事に関しては、合わせることが出来ていた。


「今から喚ぼうとしているのは移動手段とかじゃない」


「そうか……」

 ゲッコーさんまで残念がらないでいただきたい。期待に応えられないのは申し訳なく思いますよ。

 そもそも今から喚び出すのが俺の言うことを聞き入れるかどうかも分からないんだよな。


「何か起こった時のことを考慮して、先生はベルの後ろに。よければガルム氏と翁も先生をお願いします」

 言えば、即座に三人は返事とともに動いてくれる。

 この中だと先生は武力では最弱だからな。

 最強さんと、頼れるヴィルコラクとゴブリンコンビに任せたい。

 それに……、前者は使い物にならない可能性が大だからな……。


「ガルム氏、翁。頼みます」

 なので後者のコンビに念押しでお願いしておく。


「じゃあ――」

 ここでポーチからプレイギアを取り出して――、


「二人のあの布陣からしてやばいのを召喚するつもりなんですか!?」

 と、期待していた表情から不安へと変わるコクリコ。


「大丈夫だ。なにかあってもコクリコなら問題なく対処できるさ」


「それはそうでしょうとも。トールも分かってきたようですね」

 瞬時に強気になれるメンタルは手本にしたいものである。


 ――執務室にて隊伍を整えていく。

 俺は背後を見なかったが、各々が構えて待機しているというのが衣擦れから伝わってくる。


「よし! じゃあ悪魔と契約しましょうかね」


「「「「――――はぁ!?」」」」

 背後から素晴らしく揃った素っ頓狂な声。

 珍しく先生もその声の中に参加していた。

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