PHASE-55【毒針】

「矢を一斉にヒッポグリフに」

 こうやって大勢に指示を出すのは、この世界に来て初めてかもしれない。

 俺の指示に従い、皆で一斉に矢を射かける。

 ――――しかし、そういう戦い方で攻めてくるのは理解しているとばかりに、ヒッポグリフが翼を大きくしなやかに動かせば、生まれる風によって、矢がパラパラと地に落ちる。


「だめだこりゃ……」

 あんなデカいのが飛んでるなんてインチキだ! しかも知恵までありやがる! チートだチート!

 とにかく近づけないためにも矢で狙ってもらう。

 ヒッポグリフはともかく、騎乗しているゴブリン達には牽制になっているようで、十頭は上空で美しく円を描いている。


「ラフベリーサークルみたいだな」

 なんて言いつつ、ゲッコーさんの手に持つ得物が、MASADA からツァスタバM91に変わっている。

 ドラグノフ狙撃銃のユーゴスラビア版というべき銃。

 本当に、俺の銃選びのセンスはメチャクチャである。

 ここでの狙撃銃はノーカンだろう。矢が効かないんじゃ仕方ないところ。先生には目をつぶってもらいたい。


「――上手いな」

 ツァスタバM91を構えるけども、すぐにスコープから目を離すゲッコーさん。

 空を飛んでる幻獣たちは、太陽を背にしているから、狙いが定められないみたいだ。


「うわぁぁぁぁぁぁ」

 構えを解いたのと同じタイミングで、ヒッポグリフが急降下してくる。騎乗するゴブリンはこちらに恐怖を与えるかのように、不気味に甲高い角笛を吹く。

 一人の兵士を咥えるとそのまま上昇。

 高い位置から、咥えた兵士を落とした。

 ――――少し離れた城壁の外側から、ドシャリと、重く鈍い音が耳朶に届く……。

 戦意を失ってしまう嫌な音だ。


「止まるな! 一気に駆けよ。梯子の用意!」

 勢いづかせるように、大将のホブゴブリンが檄を飛ばす。

 練度が高いのか、失敗が許されないのかは分からないが、相手は矢を射かけられても、足を止めることなく前進してくる。

 このまま勢いづかれるとこっちが気圧される。

 攻城兵器という脅威はないが、代わりにヒッポグリフがいると、攻城兵器がなくても相手は問題なく市井に入り込める。


「我々は出来る事をやりましょう」

 冷静に発しつつ、先生が投石機による攻撃を加えていく。


「落ち着け、軍師殿に続き、矢を放て! 敵の侵攻をにぶらせろ。インクリーズが出来る奴らは使っていけ」

 カイルも続けて檄を飛ばせば、戦い慣れしている冒険者たちの矢が、確実にゴブリンやオークの額を射抜いていく。

 インクリーズ――――。マナを使用した筋力強化のスキルだそうだ。

 従来では引けない程の張力のある強弓を容易く引けるようになるようで、射抜かれた敵は矢が刺さると同時に、後方へと吹き飛ばされ、その後方にいる者も貫かれていった。

 破城槌代わりの戦槌を持ったトロールにも、強弓から放たれた矢が見舞われ、巨体は門にたどり着くことなく倒れていく。


「凄いな」

 これは本腰を入れて、マナを習得しないとな。

 しかし多勢に無勢。敵はどんどんと城壁に接近してくる。

 上空からは再び急降下してくるヒッポグリフ。ゴブリンが得意げに角笛を吹き、掴まれたゴンドラからは、ゴブリン達が矢を放ってくる。

 角笛の音に、こちらの兵達は恐怖しているようで、動きが一気に悪くなる。

 冒険者が強弓から矢を放つも、象ほどあるヒッポグリフの巨体を覆う羽毛は分厚いのか、トロールと違い、矢が刺さっても何とも思っていない。鏃が筋肉まで届いていないようだ。


「あのジェリコのラッパはなんとかしないとな」


「シュトゥーカ!」


「そう、ユンカースJu87シュトゥーカだ。あれは落とさねばならないな」


「スティンガー!」


「そう、FIM-92 スティンガーだ」

 ゲッコーさん、MASADA からツァスタバM91。そして、そこからスティンガーに変更している。

 これは勝った。

 が、スティンガーって生き物を捕捉出来るのか?


「――ロック完了。後ろには誰も立つなよ!」

 出来るんだ。

 バックブラストの危険を伝えるゲッコーさんの声は荒い。

 ――――発射される。

 十メートルくらい離れたところでミサイルは尻から火を噴くと、標的に向かって超音速にて飛行を始める。

 そして――――、爆発。

 ヒッポグリフは片羽根をもがれ、脚を欠損しながら、円を描くように落ちていく。

 ――――ズゥゥゥゥンっと音がする。

 騎乗、ゴンドラに乗っていたゴブリン達もまず助からないだろう。


「お、おお……」

 と、一人の冒険者が感嘆の声を漏らすと、


「「「「おおぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」」」」

 見たこともない、高速で敵を追尾する鉄の矢が爆発する光景に、感嘆の声が輪唱し、大きなものになる。

 味方も敵も、これには動きを止めてしまった。

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