PHASE-56【城壁防衛】

「さあ、次だ」

 淡々と次を用意するゲッコーさん。


「生き物も捕捉出来るんですね。てっきり航空機の熱とかを感知するだけかと思ってました」


「まあ、出来るんだ」

 ――デジタル処理で対象を捕捉。

 背景が出す赤外線と、背景を遮るターゲットが出す赤外線は、量、波長が違うから、それによって捕捉が出来るとか。

 うむ、言っている意味は分からない。

 ただ理解できるのは、これで空の脅威は完全に取り除かれたということだ。


「凄いな。この前の携行しやすそうな対戦車兵器にも驚いたが、空の相手に対して、追尾して倒すとは」

 WW1をモチーフにしているからか、対空兵器が追尾するってのは目にしたことがないようで、ベルは驚いている。

 ゲッコーさん、更にもう一発。

 ロケットモーターに点火されたミサイルが、再びターゲットに向かって飛んでいく。

 先ほどの脅威を知ったゴブリンが、手綱を引いてヒッポグリフを操る。角笛を吹く余裕は消え去ったようだ。

 ラフベリーサークルは崩れてバラバラ。

 次は自分なのかと、恐怖に駆られて逃げるのに精一杯だが、超音速を超えるミサイルを躱すのは、不可能と思われる。

 生き物特有の急旋回とかを行えば、ワンチャンあるかもしれないが、ゴンドラを掴んだ状態では無理だろう。

 そう思っていた矢先に、一頭が毒針の餌食になる。

 大きく体を欠損しながら地面へと落ちていく。

 ゴブリンに手綱を掴まれてるだけだろうから、幻獣には罪は無いと思う。可哀想という感情もあるけど、放っておくと、こちらに被害が出るからな。


「出来れば一頭は捕らえたいので、網を用意して」

 先生はヒッポグリフに興味があるようで、捕獲の提案を口にし、冒険者たちに防衛用の網を準備させている。


「臆するな! 進め! 前進こそが我らの唯一の道よ」

 ハルバートを地面に叩き付け、激しい音を立てれば、浮き足立っていたゴブリン達が背筋を伸ばした。

 指示に従い、再び前進してくる。

 その間にもゲッコーさんがヒッポグリフを墜としていき、半数にまで減ると、ヒッポグリフは高く飛ぶことをやめ、低空で飛行し始める。

 好機と、先生はタイミングを見計らって捕らえる準備。


「相手の勢いが中々に削げないな。あの巨躯は、良い将なのだろう」

 敵の士気の高さにベルが感心していた。

 前進の指示を出してるだけのようだが、兵達はそれに逆らわず、下知に従って勇猛に攻めてくる。

 その姿は、こちらに脅威を与えてくる。

 敵兵の士気が挫けていないのは、バロルドっていうホブゴブリンに、信頼を寄せているからだろう。

 スティンガーで浮き足立ったが、あいつが口を開けば、引き締まったからな。


「そのまま城壁を通過させて――」

 俺たちを余所に、先生は、一頭のヒッポグリフが低空飛行で接近して来るのを見計らって、捕らえる準備。

 城壁を通過したところで、


「――今です!」

 網が投げられる。

 投げたのはハンターのような風体の冒険者数人。

 風体どおりの卓抜さがあり、タイミングどんぴしゃりの網が翼にからむと、バランスを崩しながらも、動かせるだけ翼を動かして、ゆっくりと地面に落ちていく。

 一斉にそこへとハンター達が群がっていった。

 ――――捕獲は成功のようだ。

 でも、こっちにも網が欲しいんだけども。

 いよいよ梯子をかけて登ってくるゴブリンたち。その動きは素早い。練度の高い証拠だ。

 壁上から石を落としたり、矢を射かけたりして対処する光景が、方々で見られるようになってきた。


「!? わっと!」

 俺の横をヒュンと風切り音。

 矢が通過していった。

 これはいよいよまずいぞ。


「網。油。火だ」

 横でカイルが、淡々とした低い語気で、周囲に伝える。

 言われるままに網が投げられ、梯子を登ってくるゴブリンが網にかかり、動きが鈍くなる。

 そこへ油が流され、矢の先端をマッチの要領で煉瓦に擦れば、鏃が火矢となる。

 キリキリと弦を引き――、放つハンター。


「キャァァァァァァァァァ!!!!」

 うん……。嫌に響く断末魔だ。

 苦しんで炎に呑まれるゴブリン。

 慈悲のない炎だ。ベルの炎と違って、苦しんでいる……。

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