PHASE-54【有明のような壮観さはない】
「前回は奇跡の御業。今回は実戦にて心胆から自信をつけてもらわないといけません。ですので、ゲッコー殿は戦況が変わらない限りは、大将への狙撃は遠慮していただきたい」
「了解した」
狙撃か。その手もあるな。大将首にスナイパーライフルを使えば解決だもんな。でも、却下されたし、ゲッコーさんも従ってるので、今はまだ使えないのか……。
弱卒を強兵に変える。これは俺にも言えることだ。俺が大将首をとるんだからな。
狙撃案が使えないと残念がってるようじゃ、まだまだ心が弱い証拠だ。
とはいえ、四百で一万か……。
「
「なんですそれ?」
疑問符の先生。いやいや、遼来来って、合肥戦線での張遼の活躍ですよ。と、説明――――。
「文遠君は勇将でしたが、そこまでの活躍をしましたか」
あれ? この時って先生はお亡くなりになっているのかな?
この辺の歴史はほぼゲーム知識だからな。詳しくは知らないけども、この時、先生は故人となっているようだな。
文遠君とか言ってるし、張遼って、先生のタメか年下なのかもな。
説明中に、一番この話に食いついたのはベルだった。
勇敢なる戦士は尊敬の対象のようだ。エメラルドグリーンの瞳が、英雄譚を聞く子供のようにキラキラと輝いていた。
これは俺も負けてられないな。俺もいずれはそんな目で見られたい。
帯刀した刀の柄に手を添えてから、強く握る。
俺のためじゃなく、周囲の人達を守るために俺は刀を振り下ろす。
「いい目だ」
おう、まさかここまで柔和な笑みをベルが俺に見せてくれるとは。
さっきもそうだったしな。これはいけるんじゃないか。
こっそりとディスプレイを覗いてパラメーターを見てみると――――、ゼロか……。
もしかして忠誠心はゼロでも、親密度とかならワンチャンありそうだな。セラにお願い――――、いや、やめよう……。これで低かったらやる気を無くしてしまいそうだ……。
ギヤマンハートの俺は、プレイギアをそっとポーチへとしまう。
それを合図にしたかのように、眼前からジャーン、ジャーンと、耳を劈く銅鑼を叩くような音が響き渡る。
角笛や太鼓もそれに合わせつつ派手に響き、調子に合わせて行軍してくる。
「おお! 偉大なるかな万という数。でもテレビで見た有明のコミケイベントでは、ここ以上の人数が、整然と並んで歩いていた。大したことないなゴブリン達。行軍に乱れが見られる。有明に集いし
「恐るべきは、どんな時も並んで待つことの出来る、日本人の
ゲッコーさんもイベントで並んでいる人達には感心しているようだ。
「主が眼界の敵に驚かない胆力を見せてくだされば、周囲の者たちも鼓舞されます。アリアケ――、素晴らしき精鋭たちなのでしょうね。さながら青州兵、虎豹騎の如き存在なのでしょうか?」
先生……、全然違います。
いつの間に準備したのか、城壁の内側に
そのてっぺんに先生が立ち、指示を周囲に伝え始めた。
普通は攻城兵器だよな、あれ。まあいいけど。
「さあ、まずはお返ししよう」
と、先生が手にした乗馬用の鞭を指示棒代わりにして指示を出せば、以前に鹵獲した投石機が登場。
「――放て」
の、合図で、スイカサイズの石が城壁を越えて、進軍する敵へと落ちる。
「おう……」
見事に命中すれば、無残なものに変わるゴブリンやオーク。
これを合図に矢が一斉に放たれる。
相手は攻城兵器がない状態。こちらからは矢は届くが、相手からの応射では、城壁を越えるには至らない。
とはいえ、こちらは四百程度だ。矢衾とは言いがたい。
相手は南と西の城壁へと攻め入るように、翼包囲にて徐々に迫ってくる。
翼包囲――――、これも先生が以前言っていたことだな。
翼包囲と同時に、高い音を出す角笛が吹かれた。
「何かしらの合図だ」
ゲッコーさんが警戒を強める。
向けられる目は空だ。
「近づいてくるとデカいのが分かりますね~」
「ああ、神話の存在だからな。大きさなんて知らないが、現状で俺たちに接近するのは、象とさほど大きさが変わらないな」
ヒッポグリフのお出ましだ。けたたましい角笛を吹きつつ、手綱を握るゴブリンが見える。
ゲッコーさんが言うように、空飛ぶ象である。
乗り手は小柄なゴブリン。子供の背格好だから、背中には五体ほどが騎乗している。
前半身が鷲という事もあり、前脚で器用に、ピクニックにでも出かけるかのような、木で編んだでっかいバスケット状のゴンドラを掴んでいる。
ゴンドラの中には内面に沿って、弓を手にしたゴブリン達。
あいつらが上から攻撃したり、降下して、
だとすると、あれに乗っているのは精鋭だろう。
「十頭いる。デカいのが十頭で飛んでる姿は、脅威だが痛快だな」
「ゲッコーさん、悠長なこと言ってられないですよ」
「そうですよゲッコー殿」
俺に同調するように、先生も
「出来れば一頭は確保したいです。あれは役に立ちそうです」
あ、そうですか。
先生が一番、悠長だ。
だが、あんなのを放置は出来ない。
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