PHASE-701【親子再会】
「おっと伝達が早い。狼煙なんてなかったのに」
「お前と同じ能力を有する者達もいるからな」
ビジョンで王都城壁の壁上から監視していれば直ぐに分かるよね。
伝達速度の速さが分かるように、ヒッポグリフに騎乗した爽やか知的イケメンさんが俺たちの前に降下。
象ほどの大きさがあるヒッポグリフが伏せの姿勢になり、先生が飛び降りるときには、それに合わせるように尻尾が先生の足元まで移動。
尻尾をステップ代わりにしてから石畳に足をつける。
完全に飼い慣らしているようだ。
先生に合わせて俺たちも降車してから向かい合う。
「お帰りなさいませ。主」
掌を重ねた文官の拝礼にておかえりの挨拶。
「先生もご無事で。ワイバーンによる王都帰還時に支障はありましたか?」
「いえまったく。楽しい空の旅でした」
「それは良かった」
「下臣への配慮痛み入ります」
「臣下じゃなく仲間ですけどね。先生は頼れる大切な仲間です」
「――主は人たらしの才がお有りのようで」
言ってなんだが、言葉尻の台詞はちょっとくさかったな。
思い返すと気恥ずかしくなってくるので、
「人たらしと言えば秀吉。秀吉のように天下を取りたいですね」
と、誤魔化しとく。
「この世界を泰平の世にするのはよいですが、文禄・慶長の役のようなことにはなりませぬように。国力が疲弊します」
「……あ、はい」
――…………どこからの知識ぃ!?
俺としては秀吉とは誰です? って返しを待っていたのに。まさかの返しだったよ。
流暢にプライベート・ミリタリー・カンパニーって口にした時の衝撃に続いての衝撃ですよ。
二世紀から三世紀を生きた人物が、十六世紀の歴史を語るという異様な状況は、まさに異世界ならではだな。
この世界の知識はこの世界の歴史から学んだのは分かる。
横文字はゲッコーさんの組織にある資料室にある本からの知識だろう。
ボールペンなんかと一緒に本もいくつか召喚したからね。
もしかしたらその中に、日本の歴史が書かれた本も置いてあったのかもしれないな。
先生の知識吸収力が怖い時がある……。
「さて、私の口から文禄・慶長の役が出たことに驚いてくれているようですが、王城へと参りましょう」
敵対する者たちは眼前にて相対するベルやゲッコーさんよりも、後方にて指揮をする先生を最も恐れないといけないだろうな――――。
「おお! トールよ! よくぞ戻った!」
「お久しぶりです」
会う度に屈強な姿になっていきますね。
いったいどんなトレーニングをしているのでしょうか。
玉座から力強く立ち上がり、王者としての風格を感じさせる強い歩みで接近し、俺の手を両手で握ってくる。
大きくてゴツゴツした手の握力はとても強い。
こんなにも圧を感じさせる人物だっただろうか。
貫禄が今にもオーラとなって体から漲りそうだ。
「うん――。本当に、本当に感謝するぞトール」
言って、視線は俺の背後に向けられる。
「お父様」
「プリシュカよ。元気そうで何よりだ」
「当然です。安全な地にいたのですから」
満面の笑みの王様。
歳で刻んだ皺が、喜びの表情でより深くなっている。
でも実際は――、
「王よ。我が主よ」
「おお! そんなに畏まらないでくれエンドリュー」
姫の横に立つ侯爵が片膝をつけば、駆け寄って立たせる王様。
「お許しください王よ」
「何をだ? 私こそ謝罪せねばならないのに」
息子さんが戦場にて早世した後、精神を病んでしまい何も考えられないままに魔王軍の暴挙を許してしまった王様。
そんな最中にも、しっかりとバランド地方を治めていた侯爵には合わせる顔がないと恥じ入る王様が深く頭を下げる中で、侯爵がバランドでの経緯を隠すことなく話す。
姫が一時期アンデッドとなり、自身も魔王軍の手の者に体を乗っ取られていたことをつまびらかに声に出し、謁見の間にいる貴族やナブル将軍にも聞こえるよう自身の失態を述べ、再び謝罪として膝をつく。
今度は両膝でのもの。そこからは額を床へとこすりつける
オリハルコンの鎧が従来の金属鎧より軽いとはいえ、それでも大人一人を軽々と持ち上げる王様の膂力よ。
本当に、出会った時の人物と同一だとは思えないくらいに別人となったね。
もちろん良い意味で。
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