PHASE-502【朽ちていく】
雄々しい姿に敬慕の情も生まれるけども――、
「ベル。目眩ましを」
「その程度でいいのだな」
「おう!」
俺たちは勝利のために行動する。
ベルが分かったと小さく首肯すれば、水面に炎を纏わせたレイピアを浸す。
火力は控えめ。それでも全てを灰燼とする炎が水面に触れれば、水蒸気爆発とまでは行かないが、濛々とした煙が立ち上り、俺は包まれる。
「ぶっは!」
息をすればむせる。
サウナストーンに馬鹿みたいに水をかけた時のサウナみたいだった。
「小賢しい」
流石の赤い瞳でも、水煙の奥を見通すことは出来ないからな。
でもって、覆轍は踏まない。
「コクリコ。盛大に頼む」
煙に包まれた視界では確認は出来なかったけども、伝えれば理解してくれたようで、ファイヤーボールと唱えてくれる。
水による足音をかき消すように、コクリコのファイヤーボールが着弾……。
出来ればもっと離れた場所に放ってほしいが、贅沢は言えない。
俺の側に数回、火球が落下してくる。爆発の熱も届くが、火龍装備なので問題なし。
これだけ近くで爆ぜる音が生まれれば、俺の足音を捉えるのは難しくなっているだろう。
動きが鈍くなったとしても、膂力に全振りしているような存在の攻撃を受ければ、瀕死以上は確定。
だから接近するまで念入りに対応させてもらう。
コクリコの電撃に、視界を奪ってくれるベル。でもってコクリコによる音の錯綜。
野狐の掩護を妨げてくれるゲッコーさん、シャルナ。
護衛軍の対処にランシェル。
ここまでお膳立てが整っているわけだから、決めないと格好がつかない。
というか、大魔法を直撃させることから始まった努力を無駄にはしたくない。
「ブレイズ」
残火に炎を纏わせる――。
水煙の中から飛びだせば、大上段で迎え撃つ姿が目に入る。
痛々しくも雄々しい姿には、意識を攻撃に集中していなかったら、崩壊前の美というものに魅入っていたかもしれない。
先攻はデスベアラーだった。
振り下ろされる一閃は素晴らしい。
脇がしまり、全てをなぎ倒す暴風のような風切り音。
振り下ろさせる一撃は、触れた者の命を他愛なく刈り取る威力を有しているのが一目で分かる。
――――一目で分かるというくらいに、剣筋を捉えることが出来ていた。
やはり大魔法の直撃は、強者といえど無事ではすまなかった。加えて水煙のどこから出現するかの予測を立てないといけない分、初撃にわずかな遅延もあったようだ。
腰を捻って、空中で水平きりもみ回転を一度おこなう。
戦闘機のバレルロールをイメージしての回避だった。
一閃を回避し、着地と同時にフランベルジュの剣身を見れば、今にも斬り上げが俺に向かってきそうだった。
だが、後攻の俺がデスベアラーの二撃目よりも、早く斬撃を見舞うことに成功する。
着地のバランスを整えないままの斬り上げによる斬撃だったから、思っていたよりも角度が垂直に近い一振りだった。
下方からの斬り上げは、デスベアラーの右太ももから入って、そのまま右腕部と右側の顔部分を削ぎ落とした。
本来の狙いだったら、左鎖骨の方向へと斬り上げるつもりだったけども、及第点ではある。この一閃でもダメージは間違いなく入っている。
加えて――、
「ぬぅぅぅぅぅぅ……」
ベルの炎と違って、俺のは体に纏わり付く炎だ。
一瞬で灰燼へとすることは出来ないけど、スリップダメージを与え続ける苦痛の一太刀。
斬り落とした箇所が水たまりへと落ちながらも、炎を纏っている。
火龍の鱗から作られた刀と、付与されるブレイズの炎は、水に負ける事なく赫々と燃え続ける。
白銀のヒビ割れた体から、ビシビシと亀裂音の走る音が室内に響く。
「やってくれるな」
「凄いな。これでも立っていられるんだから」
いまだ戦う姿勢を崩さないデスベアラーには、お見事と称賛を送るしかない。
炎は体全体に燃え広がり、亀裂音も更に大きくなる。
炎に耐性があっても、ダメージを受けたヒビの入った体だと、内部に炎が入り込み、内から破壊していく。
それでもこちらに対して攻撃を止めようとはしない。
デスベアラーの両足を断ち切り、動きに制限をかける。
「降伏するべきだ」
「愚問。弱者として後ろ指は指されたくない」
残った左手で掴むフランベルジュによる横薙ぎ。
朽ちかけた体であっても、剣速は衰えない。
バックステップで回避。
降伏しないなら――、一気に終わらせる。
再び距離を取り、
「全員、高いところに」
言って直ぐさま、
「スプリームフォール」
と、継いだ。
回避する事も出来ない体に再び大瀑布が襲う。
炎を纏った朽ちかけた体に水が触れれば、勢いよく水煙を上げた。
熱せられた鉱物の体が、水によって急速に冷やされる。
――熱膨張。
急激に冷やされれば、冷やされた部分は収縮するけど、熱が残った部分は膨張したままの状態。
ヒビ割れた体では、収縮と膨張による歪みに耐えうることは出来ないだろう。
デスベアラーを襲う現象を見届けて、
「とりゃ」
俺は跳躍。
クリスタルや柱から伸びる管を掴む。
球体が鎮座する台座まで伸びるその管をアスレチック広場にあるターザンロープの要領で移動する。
素手だと手の皮がずるむけになるだろうが、火龍の籠手と一体となっている黒い手袋が、俺の手を保護してくれる。
「――げぺっ!?」
まあ、移動は成功しても着地は無様。
体を球体に貼り付けるようにぶつかる様はコメディだ。
「本当にしまりませんね~」
既に台座上で待機していたコクリコの嘆息に、他の皆さんも同意と首肯だ。
決められなかったので何も言い返せないですよ。
着地して振り返れば、再度、大波が発生。
しかし、先ほどと同様の結界が顕現して、水の衝撃から俺たちを守ってくれた。
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