PHASE-501【崩れ落ちようとも】

「凄いぞシャルナ! こんな障壁を出せる魔法も出来るんだな。大魔法か?」

 詠唱をしていなかったみたいだから、上位魔法なのかな? それとも大魔法の詠唱破棄スペルキャンセルかな?


「いや、私じゃないよ……」

 ありゃ? てっきりシャルナだと思ったんだけども。問うた本人も驚きの表情で障壁を眺めている。


「え、じゃあランシェル?」


「違います。コレは――――」

 何か理解したご様子のランシェル。

 気になるので、もっと突っ込んで話を聞こうとしたところで、


「ちょっと待て」


「どうした? コクリコ」


「この流れだと、ちゃんと私にも聞くべきでしょう」


「安心しろ。それはない」


「なぜに!」

 いや、きっと誰もお前だとは思わないよ。絶対に。


「何があったかは後にしようか」

 ベルのエメラルドグリーンの瞳に鋭さが宿り、決壊により崩れていく壁の奥を凝視。

 つまりは、滝の如き俺の大魔法の中心部に目を向けているわけだ。


 ――――徐々に水量が減っていき、室内の水かさも下がってくる。

 原因は開かれた門と、デスベアラーが壁を破壊して俺に攻撃を加えた時の穴が排水口の役割を果たしていた。

 穴から水が排出され、要塞内へと流れ出していく。

 とはいえ室内にはまだ、踝が浸かるほどの水が残っている。


「……あ、ああ……アぁ……」


「おう、効果は抜群だな」

 大ダメージだ。流石は大魔法。

 直撃すれば、鉱物の体から出来ているであろうデスベアラーにはかなりのダメージが入っている様子。

 体のいたるところにヒビが入っているのが、見て取れる。


「よし、一気に畳み掛ける」

 ここで野狐にクリエイトを実行されれば、元も子もない。


「妨害よろしくお願いします」


「まかせろ」

 MASADA片手に、今度はゲッコーさんが野狐にちまちまとした攻撃を行ってくれるようだ。


「出来ればベルには手伝ってもらいたいぞ」


「いいだろう」


「助かる」


「だが――」


「分かってるよ。俺が必ず倒す。トドメをベルには頼らない」

 ご満悦とばかりに俺に柔和な笑みを向けてくれる。 

 このまま更に攻撃を行えば間違いなく倒せるはずだ。

 相手の体はヒビが入っているから、動きも鈍くなっているだろう。

 憶測で挑むのは危険だけども、見ただけで弱っているのは分かる。

 だからこそ、確実に仕留めたい。


「コクリコ。頼む!」

 俺とベルが跳躍すれば、理解したとばかりに、


「ライトニングスネーク」

 ワンド先端の貴石を黄色に輝かせながら、水面を這うように進む電撃の蛇がヒビの入ったデスベアラーへと巻き付いていき、青白い輝きが全体を覆う。


「ぬぅぅおぉぉぉぉぉ!!」

 痛みは感じないと言っていたけども、苦しみはあるようだな。

 攻撃を成功させるためにもあらゆる事は実行する。


「司令!」

 予想通り野狐がクリエイトを唱えようとしてくるけども。


「駄目だな」


「させない」

 ゲッコーさんの牽制射撃と、シャルナの魔法が妨害する。


「ええい! お守りしろ!」

 野狐のデミタスが発せば、溺死を免れた護衛軍の数人が立ち上がり、フラフラになりながらもデスベアラーの壁になろうとする。


「敵ながらいい主従関係であり、信頼関係だ」

 ついつい賛辞を口にしてしまう。

 この黄金の時間を奪われたくはないので、俺としては横合いからの攻撃は迷惑なんだけども。


「――お任せを」

 俺が頼む前にランシェルは台座から跳躍し、床へと着地すれば、パシャパシャと、まるで水面の上を走っているかのように軽やかに疾駆し、接近する護衛軍に対してナックルダスターにて攻撃を加えていく。

 それを横目で眺めつつ、お互いの刀剣の間合いに入る手前まで距離を詰めれば、


「来る……か。勇者と従者……」

 デスベアラーが大剣を握った腕を上げる。

 上げる動作でギギギ――と、機械的な軋んだ可動音が響く。まるで悲鳴を上げているようでもあった。

 悲鳴など意にも介さないとばかりに、フランベルジュを大上段に掲げる姿は正直、格好良かった。

 

 体を形成する鉱物がパラパラと砕け落ちているが、気にも留めずに、俺を迎え撃つデスベアラーの姿は、武人として雄々しい。

 ショゴスの配下であり、そのショゴスに生み出された存在ではあるけど、尊敬に値する武人の姿を俺はしっかりと視界に収める。

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