PHASE-394【絶好調である!】

「ん? なに?」

 何をまじまじと見てるの? 恥ずかしいんだけど。美人の至近は嬉しいけど恥ずかしいよ。

 これは夢なのか? おっぱい触ってもいいのか?

 ランシェルちゃんの時は拒否感があったのに、ベルに対しては全くない俺。

 なんでだろうな? やはり出会った時間の長さなのかな?


「今日は随分と顔色がいい」


「え、そう?」

 言われてベッドから起きれば、今日は何とも体が軽い。

 四肢に体幹もしっかりとしていて、前日とは違う。ベッドから床に足を付けてもふらつくことがない。

 試しにピョンピョンと跳ねてみる。


「おお、体が軽いぞ」

 直ぐに姿見で顔を見れば、クマがなくなっていた。

 自分でも分かるくらいに血色も良い。


「たまご肌のように、ツルツルのプルプルじゃないか」


「馬鹿なことを言ってないで、朝食をすませるんだな」

 確かに、腹が減ったぜ。

 昨日は起きた直ぐは、死にかけのような風貌だったが、一日寝ただけでこんなにも好調になるなんてな。

 やはり前日までは、この地の風土に体が慣れてなかったのかもな。

 ようやく慣れてきたのか、それとも夢の中のランシェルちゃんの癒やし効果かな?


「どうした?」

 じっとベルを見れば、訝しい表情を向けてきた。


「負けてるぞベル」


「は?」

 首を傾げて、訝しいから馬鹿を見る目に変わった。

 そういうところだぞ。夢の中で同じように癒やしてたのに、ランシェルちゃんの時は、こうやって元気になったぞ。

 夢の中のお前は何をやっているんだ。おっぱいは気持ちよかったけど、ちゃんと俺を現実でも癒やしなさいよ。

 ――――などとは言えないので、


「今の俺の肌質に」

 と、誤魔化す。


「――――は!」

 すっごく鼻で笑われた。

 たしかに、ゲームの美人様の肌には勝てないよ。

 美肌も最高設定なのかとばかりに綺麗だからな――――。




「うまい♪ うまい♪」


「は~」

 向かいに座るシャルナが驚くくらいの食いっぷり。

 シャルナの隣に座るコクリコは、対抗心を抱いたかのように、俺に負けじと食事を口に運ぶ。

 いつもはコクリコの独擅場どくせんじょうだが、今日はそうはいかない。

 絶好調の俺の胃袋の力を見せてやる時がきたようだ。

 

 白パンをモグモグと口に運び、スープはスプーンを使わずにズズズズ――ッと、皿に直接口をつけて音を立てて飲む。

 下品だろうが知ったこっちゃない。昨日と違って、俺の胃袋は食い物を大いに欲しているのだ。


 厚切りベーコンにかぶりつき、咀嚼して嚥下。

 テーブル中央には、取り分けるように置かれた銀の大皿。

 朝食が始まる頃は、その大皿には山盛りのソーセージが聳えていた。

 ――――が、最早、残るは一本のみ。

 

 銀のフォークをそこへと走らせれば、

 キンッと、銀食器が高い音を奏でる。


「最後の一本は私が食すことが、ここでのテーブルマナーですよ」


「は? 聞いたことねえよそんなマナー」


「ならば勉強になったでしょう。さっさとそのフォークを下げなさい」


「馬鹿めが。マナーなど勝者が決めればいいだけ。ここで俺が勝利して、俺のテーブルマナーに変えてやる」

 響き渡る金属音に比例する、激しい奪い合い。

 フォークとフォークが打ち合うこと十数合。 

 はたしてどちらがソーセージをゲットするのか。一進一退というところで、俺はピタリと動きをとめる。

 経験則から、このまま続ければ、本当のテーブルマナーがお粗末だと、怖い中佐から拳骨を見舞われる可能性が出て来る。

 なので、賢い俺はやめる。


「諦めるとは情けない。まだまだ私の領域には立ち入れないようですね」

 勝利者の笑みを湛えながら、フォークにぶっ刺したソーセージをこれ見よがしに一口で頬ばるコクリコ。

 愛らしさなんて一欠片もありゃしない。

 ただの腕白ガキ大将ですよ。

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