PHASE-395【鏡の回廊】

 テンションが平静になった今、拳骨を見舞われないかと恐る恐るベルを見れば――、


「終わったのか? 好調とはいえ無茶はするなよ」

 ――……あらやだ! ベルが優しい。

 本来なら絶対に馬鹿なことをするなと、俺とコクリコは拳骨ルートだったはずなのに。

 なんか優しいぞ。

 ランシェルちゃんを擁護した時も褒めてくれたし。これはマジでベルが、俺の事を異性として見てくれているんじゃないだろうか。


「お茶を飲むか?」


「うん」

 ほら、俺に優しいもの。

 というか、いつもならランシェルちゃんがやってくれるはずなんだけど、今日はいないな。

 いつもと違うメイドさんだ。

 タイプ的にはコトネさんのような美人タイプのメイドさん。


「そう言えばランシェルちゃんは?」

 気になったので美人メイドさんに質問すれば、


「本日は……、休暇でして」

 何ともどもった言い方だったけど、休暇か。

 メイドさんも毎日、働くわけにはいかないよな。

 働かせすぎて、組合を作られたら侯爵も大変だ。

 この世界に労働組合があるとは思えないけども。


 ――――食事を終えて、ゆったりとした時間を過ごす。

 メイドさんからもお茶をもらう。

 やっぱりと言うべきか、ベルとゲッコーさんはもらわない。

 なので癖になってる俺だけもらう。といか、シャルナもコクリコも飲まないよね。俺だけしか飲まないとか、相手からすると失礼にも受け取られそうなんだけど。

 もう少し、周囲は気を利かせてほしいね。

 ――この爽やかさの中に隠れる、独特な苦味が美味なのに。皆、分かってないな~。

 

 さて、いい加減に進捗遅延を修正していかないとな。

 今日は侯爵に、派兵確約のお願いをと提案。

 まだまだ姫とも交渉しないといけないし。

 というか、これが主目的のはずなのに、街を散策とか、脱線もいいところだった。

 でもって、俺がこの提案を出すと、ゲッコーさんはあまり乗り気じゃない。

 ベルにも問えば、やはり乗り気じゃない。

 どうした? なんかあるのか。


「忌憚のない意見を聞かせていただきたい」

 なにかあるなら聞かせてもらいたいんですが。

 俺は勇者だし、貴方方のギルドで会頭をしているわけだし。


「もう少し頑張ってみてくれ」


「何を? ねえ、ゲッコーさん。俺は何を頑張るんです? ベルも同じような事を言ってたよね」


「まあ、頑張れ」


「だから何を!」

 ベルもそれだけ言えば、口を閉ざす。

 でもって、侯爵に対して派兵の案を出すのは、まだ尚早と却下された。

 いや、意味が分からない。

 早ければ早い方が良いに決まっているじゃないか!

 まったく!


「俺は行きますからね!」

 頼りにならない有能さん達を置いて、俺は大広間を後にして、メイドさんに侯爵の執務室の場所を聞く。


 


 ――………………。


 ――…………。


「やだも~」

 別邸って外から見るとそんなでもないけど、中に入って行動すると、外観以上に広いね……。

 絶賛、彷徨い中だよ。

 どうしよう。

 結構、歩き回っている。

 本日は絶好調だから疲れる事はないが、無駄に時間が過ぎていく。


 しかしここって、侯爵が寝食をする拠点なのに、以外と衛兵の数は少ないんだよね。

 道を聞きたくても出会いがないから出来やしない。

 

 衛兵ってこの別邸だと、謁見の間の扉と、エントランスでしか見ていないような気がする。

 大広間とかにもいないし。

 兵舎だと、俺たちへの警戒もあったんだろうが、普通に扉前には立哨がいたしな。

 もしもだけど、賊とか魔王軍が直接この屋敷を攻めてきたらどうするんだろう? 兵舎に増援を求めても、時間かかるんじゃないの。

 

 兵舎と近いとはいっても、馬車を使用するくらいの距離はあるんだし。

 もしかしてメイドさんが戦うのかな?

 ――――バトルメイドか――――。それはそれで有りだな。

 格ゲーでは女キャラしか使わない男。それが俺だ。

 などと考えを脱線させている場合じゃない。


 執務室は何処…………。

 

 ――――と、歩き回れば凄いとこに出た。

 調度品が煌びやかに並べられた回廊。

 柱から天井に続くアーチには、動植物からなる金色のレリーフ。中にはドラゴンのような大型の生物も彫ってある

 レリーフに沿っていけば、天井には西洋絵画のような絵が描かれている。

 鎧を纏った騎士や、薄地の衣を着た翼の生えた女神みたいなのが、一面に描かれていた。

 天井の絵も一面なら、大きな姿見が壁一面にも備えてある。

 絢爛なシャンデリアは等間隔で吊されているが、天井画の邪魔にならないように取り付けられていた。

 この造りからするに、鏡、レリーフに天井画、調度品が回廊全体に施されたり、配置されているんだろうな。

 

 歴史の教科書に載っていた写真に、ヴェルサイユ宮殿の鏡の間ってのがあったが、正にこんな感じだったな。

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