PHASE-1066【白目は残念……】

「誘いに乗っとるぞ」

 流石はギムロン。伊達に俺より長生きしてない。

 俺達と出会う前から色々な経験をしていたギムロンは直ぐに気付いたようだが、


「時すでに遅し」

 一気に反転してコクリコへと接近。


「なにおう!」

 勝利を確信していたところに俺が余裕の笑みを湛えて正面から驀地するもんだから、先ほどまでの余裕が消え去ってムキになっている様子。


「往生際の悪い。そのようなブラフが私達に――」


「私達? 私に訂正しろよ」


「……あ」


「ちょっと速いぞ……」

 後方にてギムロンが丸太を持って追いかけているけども、


「このワンコンタクトで決めてやんよ!」


「なんの」


「逃がさんよ」

 粉々になった棒切れの残りを大事に手にしていた俺は、諸手のそれを破壊した張本人であるコクリコへと投擲。


「他愛なし!」

 フライパンで防ぐ事には成功しているけども、それに対応した結果、後退するのがワンテンポ遅れるという現実。


「おりゃ!」

 一気に手が届く間合いまで入り込む。


「賢しいですよ!」

 声には焦りが混じっているようで。

 でも仲間である俺に向かって全力でミスリルフライパンを振り下ろす事に躊躇がないのは流石だな。


「しかも!」


「きゅう!?」

 しかも――だ!!

 コイツ! フライパンの底――つまりは面で狙うならまだ可愛げもあった!

 だというのに、縁部分で殴ろうとしやがって!

 なにを面による衝撃ではなく、点による衝撃を見舞おうとしてんだよ! 


 火龍装備だろうが下手したら死ぬわ!


 とても許せなかったので、振り下ろしてくる腕を左手で掴み、右手でローブの襟元を掴んでから全力で投げつけてやった。

 十四歳の少女とか関係ない。縁で殴りかかってくるヤツなんてとくにだ!

 思いっきり背中から地面に叩き付けてやった。

 だがそこはコクリコ。


「いって!」

 倒れ様に右足を上げて俺の顔に目がけて蹴撃を見舞ってくるんだからな。

 意地は見せてもらった。

 ――……まあ、美少女の白目姿は見たくなかったけどな……。


 だがまずは――、


「ひと~り」

 次の獲物を見れば――


「手加減なしじゃの」

 丸太を担いドスドスと威圧するような足音で駆け寄る。


「ギムロンにはもっと強烈なのを見舞ってやるよ。なんたって男で年上だからな」


「怖いの――っと!」

 怖いのはこっちだ。

 総合的な威力はミスリルフライパンの方があるかもしれないが、力自慢のドワーフが繰り出すリーチある丸太の一撃のほうがフライパンより脅威だ。

 しかもコクリコ同様に上段からの振り下ろし。


「コイツ等……」

 俺が火龍装備だからって躊躇なさすぎ!

 こっちは装備はしているけども籠手で防ぐとかの選択肢はとってないんだからな。

 ある意味ハンデ背負ってんだぞ。


ったぞ!」


「なんて恐ろしい発言。だけどな」

 現状ピリアは使用してないけども、マジョリカとの死闘の中で太刀筋を見てきた俺には、しっかりと見切ろうとする胆力が培われている。

 ギリギリまで見て、ギムロンがやったと思わせたところで――、


「ヒョウ!」


「紙一重かい」


「狙ってたんだよ」

 寸前で躱してからの、


「ハイ、ハイ、ハイィィィィ!」

 全力で丸太を振り下ろすような仲間には、コクリコ同様に容赦はしない。

 俺より三十㎝ほど身長が低いギムロンの顔面に目がけて、裏拳による左と右のワンツーを見舞ってやり、右拳の裏拳から繋げるように捻った腰も利用し、ギムロンの鬱蒼とした髭に隠された顎先に目がけてチョッピングライトを打ち込めば、樽のような体が膝から崩れおちそうになる。

 が――、流石はギムロン。

 崩れおちそうで崩れずに堪えるからな。

 どっしりとしたドワーフの体型を支える両足は、根が張った大木のようにしっかりとしている。


「流石は会頭だの。今のは効いたぞ……」

 だろうな。視点があってないからな。


「じゃがまだまだ!」


「素晴らしい気迫だけども――」


「あ……」

 俺の三連撃をくらいながらも、どっしりとした姿勢で耐えてはいたが、手にしていたモノは衝撃によって手から離れてしまっていた。

 そこを見逃してやるほど俺もお人好しではない。

 特に全力で頭へと目がけて振り下ろしてくるような連中にはな!


「みんな、丸太は持ったな!!」


「いや……会頭だけじゃ……」


「そうか――じゃあ、俺も思いっきり……」

 例の漫画ように丸太を持ってみれば、ギムロンが如何に力持ちなのかが分かる。

 ピリアなしでよくこんなモノを自在に振り回していたもんだ。

 俺が扱うには難しい代物だ。

 

 ――まあ、脅しには十分だったけど。


「まいった。会頭! まいった!」

 未だに揺れる視点の中で、両掌を俺に向けてのまいった発言。

 よしよし。

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