PHASE-1085【同じ氏族でもサイズは違うんだな】
「シャルナはルミナングス――」
「いや!」
おい、途中で俺の発言を断つなよ。
親父さんを呼び捨てにしたみたいじゃないか。
「……なぜにいや?」
「私もポルパロングの所に行きたいから。相手は間違いなく手を出してくるよ。だからしっかりと私も手を出したい」
発言を体現するように握り拳をつくるあたり、殴る気満々のようだ。
ルミナングスさんがこの場に残っていたら、胃の部分を高速で擦っていただろうね。
よかったよ、先に王族のところに行ってもらって。
「私は絶対についていくからね!」
「分かった。もしもの時は頼むよ」
「当然!」
握った拳によるストレートを見せてくれる。
俺としては攻撃、回復に特化した魔法でフォローしてほしいんだけどね。
「シャルナが行くなら私も参加しましょう」
負けじとばかりにミスリルフライパンを手にして素振りを繰り返す。
この二人、どうしてもポルパロングを殴りたいようだ。
だが悪いなコクリコ。
「コクリコには最重要任務を与える」
「最重要……任務ですって」
最重要という言葉は耳心地がよかったようで、素振りがピタリと止まる。
「ああ、コクリコには臨機応変に活動してもらいたい。各所から連絡が入ったら即応してもらう為に、この屋敷で待機してもらう」
ベルと一緒に待機――ではなく、各所で問題が起きた時、その問題に対処してもらいたいと頼む。
「いいでしょう。多方面に才能を有した私こそ適任ですね」
「だろ。ギムロンはコクリコのサポートを頼むよ」
「……ああ」
体のいい留守番を任せただけだけど、言い様ではコクリコは御しやすいのがいいな。
戦闘時も口八丁で誘導して後衛になってくれればいいが、その場のテンションに押し切られるだろうから、それは難しいか。
対して重い返事のギムロンは、コクリコの面倒という面倒事を押しつけられたと理解。
面倒かもしれないけども、ベルがいるからこの屋敷は難攻不落の要塞なんだよね。
実際は一番楽なポジション。
なのでゆっくり酒でも飲んでいるといいさ。
「ということは――残りの一人は私ってことね」
「そういうことだ」
蠱惑な笑みは頼りになる。
シャルナはリンがあと一人のお供となればムッとした表情になるが、俺の中でリンは確定だったからな。
こういった時はリンが適任だ。
相手はお供は二人までって制限しているからな。
ゲッコーさんが言うように、向こう側は大人数でお出迎えの可能性が高い。
数の力には数の力だ。リンには力を遺憾なく発揮してもらおう。
――――。
残火にチアッパライノ。チーフスペシャルにゴロ太が作ってくれたソードブレイカーとしても使用できるナイフ。
残火を佩き、各ホルスターに銃を仕舞い、最後にナイフを鞘へと入れる。
雑嚢もチェック。モロトフにポーションなどの回復アイテムもしっかりとある。
回復は余裕があれば回復バッグや応急パックで対応しよう。消費するポーションは温存したいからな。
「突撃! 氏族の晩ご飯。ってな感じでお邪魔しますかね」
「なにそれ?」
「誘われたんだからな。夕食を出してくれるかもよ?」
「いらないわよ。あいつのとこのなんて」
俺にそう返しつつ、シャルナは弓に弦を張り、矢筒を背負う。
戦う気満々だな。まあ俺もだけど。
それに対してリンはいつものように何も持たない。
リンの場合、無手だろうが問題ないからな。
何より先ほどから崩すことのない蠱惑な笑みは強者の証。
「じゃあ留守を頼むよ」
「お任せを!」
うん。乗せると御しやすいコクリコの返事を受けつつ、ベルとギムロンを見れば頷きで返してくる。
「じゃあシャルナ。道案内を頼む」
「私がしなくてもいいみたいだけど」
「――そうみたいだな」
屋敷を出た先でしっかりと二人のエルフが待機している。
さっきの二人だった。
「じゃあ案内を頼みますよ」
言えば上擦った声での返事。
――。
「ここですか」
「はい」
ルミナングスさんの屋敷とは正反対の位置にあるんだな。
ドリルブロッコリーの中を真っ直ぐに移動すれば意外と近かった。
「にしてもデカい」
シャルナの家の三、四倍はありそうだ。
同じ氏族でこんなにも違うんだね。
「シッタージュ様は氏族の中でもカトゼンカ様に次ぐ力を持っております。兵力だけなら随一です。広い屋敷は上級私兵の兵舎としての役割も持っています」
兵力随一はエリスからも聞いた。
兵舎としての役割もあるなら、私兵の中でもやり手のクラスが屋敷にてお出迎えしてくれるようだな。
「数だけで実力がないなら意味はないでしょうけどね」
ここでしっかりと毒を吐けるのがリンの強さだよな。
俺に対しては平身低頭って感じだけども、お供の者にまで馬鹿にされる事はないと判断したのか、リンに抗議の睨みを向ける。
睨みに対して蠱惑な笑みを向けるリン。
本来、美人から笑みを向けられれば心おどったりもするんだろうけど、二人はリンから薄ら寒さを覚えたようだ。
即座に目を反らしていた。
笑みを湛えているのはアンデッドだからな。霊感が強いエルフである二人は知ってか知らずか、その部分を感じ取ったんだろう。
しかも魔術師として最高位であるネクロマンサー様でもある。
格が違いすぎるんだよね。
――怯えた状態のまま、震える手で扉のノブを掴む案内役のエルフさん。
普段ならどうってことないであろう扉の開閉に苦労しつつ、俺達を屋敷の中へと誘導してくれた。
――無駄に広いエントランスホールは斑紋からなる石床。
斑紋部分はやはり流行色なのか緑色。主体となる白色を淡いグラデーションで美しく彩っている。
権力者然としたエントランスだね。
「よくぞお越しくださった!」
おっ! 新キャラだな。
自信に漲る大音声でのお出迎え。
口端を吊り上げて迎え入れる姿は、強者っぽい雰囲気を醸している。
ぽいってだけだけど。
風ですな。強者風であって強者ではない。
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