PHASE-1086【小者は直ぐにムキになる】

「ここからはこの俺、テイワイズ・アリュシュメが案内させてもらいますよ」

 強者感を崩すことのないテイワイズなるエルフは、二階へと続く階段の踊り場で大仰に両手を広げてのウエルカムな姿勢。

 コンシェルジェならちゃんと目線の高さを合わせて挨拶してほしいけど、見るからに自信家で他者を見下したいタイプにはコンシェルジェは勤まらねえか。

 で、テイワイズの名乗りに合わせるように、団体さんが二階と一階の扉からゾロゾロと出てくる。


「しかし、貴男が勇者殿とは――ね~」


「いいですよ。慣れてるんで」

 後ろに控える二人からも同じようなあつかいを受けたもんだ。


「それはよかった。俺はポルパロング様の私兵千を束ねる立場でしてね。その俺に釣り合わないとなれば、勇者殿が不機嫌になられるか心配してましたよ」


「――完全に馬鹿にされてるよな」

 小声で背後に問えば、両サイドから「間違いなく」と「本当の事でしょ」という返事。

 前者はシャルナ。後者はリン。

 リンは少しはフォローを覚えないとな。

 だって俺、自領に戻れば万単位の兵を動員できるんだけど。ねえリンさんや、そこ忘れてないかい?

 自信家改め自信過剰なお馬鹿にそう返したいけど、それをすると俺も同類となるので回避を選択。


「というか、そういった発言で招かれた側が不機嫌になるとは考えないんですかね?」


「ムキになるのは本当の事を言われるからだそうですよ。事実でないなら流せるってもんです」

 ドヤって言ってくるね。

 まんまコクリコのパクリじゃねえか。

 コイツ、サルタナとハウルーシ君を捜索する時に参加を渋っていた兵達から色々と聞いているようだな。

 あの人達はあの後しっかりと慚愧して顔を伏せていたけどね。

 ドヤな発言に周囲からは笑いが生まれる。


 笑い声に沿うように目を向ければ、嘲笑と顔を伏せるという二つに分かれていた。

 前者は私兵。後者は正規兵ってところだろう。

 中には慚愧していたエルフさん達もいて、伏せつつも申し訳なさそうにチラチラとこちらを窺ってくる。


「何とも自信に満ちあふれているわね~」


「美しき女性に語りかけてこられるのは嬉しい限り。自信に満ちれば自然と美女から語りかけてくるというものですね」


「過剰な自信のようね」

 自信に溢れすぎた男の笑みってのは女性を不快にさせるようで、語りかけて損したとリン。

 女性だけでなく男である俺も十分に不快だけどな。

 肩越しにシャルナを見れば、馬鹿とは話したくないのか、睨んでいるだけで口は開かない。

 荒ぶる言葉は放たなくても、矢を放ちそうな勢いではある。


「さて、ここに呼んだわけですから、呼び出した張本人である貴方方の主殿はいつ俺達の前に現れるんでしょうか?」


「それは勇者殿次第でしょう」


「――はあ?」


「分かっているでしょう。貴男が主に対してどれだけの裏切りをしたか」


「裏切り?」


「主のご厚意を台無しにしておいて、知らないといった顔は許せませんな」

 へ~。眉を吊り上げたな。

 あんなのにも忠義を持つ者がいるんだな。

 てことは、踊り場に立つ男前エルフのテイワイズも性根が腐ってんだろうな。


「いやいや、俺はちゃんと言質とってますからね」


「何を馬鹿な事を。所有物となったダークエルフを集落に帰したのでしょう?」


「帰しましたよ」


「それが裏切りなんですよ。主は貴男に譲渡したんです」


「でも自由にしていいと言われましたからね。なあシャルナ」

 以前のやり取りの中で一人だけ置いてけぼりだった分、ここで言ってやれと目で語れば、


「トールは言われたとおりにしたよ。だって好きなだけ自由にさせていただくって言ったからね。それに対してそっちの主はどうぞって言ったよ。皆それは聞いてる。それにトールは懇意な関係になれればいいな~。って希望的観測で言ってただけで、なろう、なりたい――って決めつけた言い方はしてなかった」

 言ってやれと目では伝えたけども、まさかのコクリコもビックリなコピペ発言。

 でもって悪そうな笑みをシャルナが向ければ、


「そんなのは言葉遊びというのだ!」


「遊びじゃないよ。言葉通りにトールは自分の好きなようにしただけじゃない」


「本来、氏族から賜ったものは自分の所有物として有り難く受け取るのが礼儀ってもんなんだよ!」


「私は父様からそんな風な教育は受けてないから」


「間に入って機嫌だけを取っている風見鶏のファロンド殿は、氏族としての威厳が無いからな。上に立つ者としての教養を娘に教えることも出来なかったか」


「そんな教養を受けるくらいならこっちから願い下げ」


「同じハイエルフとして恥ずかしい限りだな」

 あ、コイツもハイエルフなんだな。


「その発言はそっくりそのまま返す。貴男みたいな存在こそハイエルフとして恥なのよ。ふんぞり返って見下すことしか出来ない。はっきり言って馬鹿だよね」


「なんだと!」


「フフフ――――」

 と、ここでリンが笑う。


「何がおかしいのかな?」


「声がムキになっているのがおかしくて。確か――ムキになるのは本当の事を言われているから――だったかしら? 本当の事を言われたから青筋を立てて醜態をさらしているのよね? 得意げに言っておいて同じ発言で直ぐに返されるってどんな気持ち? 足を掬われたお馬鹿さん」


「ギィィィィィィィィィッ!」

 しっかりとこっちにまで届く歯ぎしりだな。

 偉そうに見下していたけども、人を馬鹿にするってなれば三千世界で頂点に立てるであろうリンからの挑発を受ければ、エンレージは即MAX。

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