PHASE-1621【樹皮】
「なんだいドワーフ。圧が鬱陶しいよ」
「ゲノーモスとは違う小人さんよ、その腰に差してる刀が気になるのよ」
「へ~。オイラのクロモジに目をつけるとはお目が高い」
「見せてもらっても?」
「いいよ」
ベルトに差したサーベルを巌のような掌に置けば、鞘から抜刀。
淡い輝きのミスリルコーティングに、細かい網目状からなるドーム状の護拳。
無骨な革巻きの柄。
柄頭には赤い貴石がはめ込まれている業物。
「コイツは凄いの……。俺っちはこの作り手の足元にも及ばんな」
「ふふん。オイラのサーベル――クロモジはそんじょそこらの職人が作った物じゃないからね」
「だろうな」
鞘へと収めてミルモンへと返しつつ、
「あんたら――王都から来ただろ」
自信ある微笑みからの一言。
「どうしてそう思う?」
代表してガリオンが返せば、
「コイツはアラムロス窟のギムロン殿が製作したサーベルだからな」
この回答に俺を見てくるガリオン。
ここからはお前が対応しろってことかな。
「知ってる御仁で?」
「直接、会ったことはないが、ギムロン殿が作る物は何度も目にした。なんたって目指している存在だからな。分かるってもんだ。今あの御仁は王都にて活躍していると商人達から聞いた」
「他言は」
「せん」
即答なのは有り難い。
「お察しの通りですよ」
「だろ! その無骨ながらも美しく巻かれた革巻きの柄は、ギムロン殿の特徴だからな」
確かに。
ギムロンの装備って基本、革巻きだもんな。
その特徴をしっかりと把握しているようだ。
細かい護拳の拵えにコーティングのムラのなさ。
全てが高水準。目標としている御仁で間違いないし、その御仁の製作した小人用のサーベルは初めて目にするからと、感動のレギラスロウ氏。
すごくギムロンを尊敬しているってのが伝わってくる。
「そんでもって――よ!」
おう……。俺を見てくる目に狂気を宿らせる。
カウンターから上半身どころか全身を乗り出して俺の方へとくるレギラスロウ氏。
「そ、その腰に佩いてる黒鞘の刀もだよな」
グルグルに巻かれた黒革からなる革巻きの柄。
製作者は間違いなくギムロン殿だろう? と、鼻息が荒い。
俺の腹部くらいまでしかない身長のドワーフの勢いに、気圧されてしまう。
「頼む! そいつを見せてくれ! 見せてくれたら装備を安くで売ってやる!」
ここでロハと言わないところが商売人だよね。
「どうぞ」
佩いていたマラ・ケニタルを手渡せば、
「ひゃあ! 軽いな!」
刀の軽さにとても驚いている。
軽さで言うならもう一振りの方が更に軽いんだけどね。
でも残火には目を向けない。
目標としているギムロンが製作した方にご執心である。
「抜いても」
「どうぞ」
ゴクリと喉を鳴らし、一度マラ・ケニタルに深々と頭を下げ、やおら抜く。
途端にくわりと目を見開く。
「嘘……だろ……。この灰色の刀身……。いやいや待ってくれ……。ありえん、ありえんぞ……。が、俺っちの目は節穴じゃねえ……。あんた……一体何者なんだ」
「ただの冒険者ですよ」
「んなわけあるかい! 俺っちが無知だとでも思ってんのかい!」
「そんな大声を出さないでください。他のお客に迷惑ですから」
「ああ、申し訳ねえ。だがこりゃ
「興奮して滔々と語ってますが、それ以上は」
「お、おお。こりゃ失礼。なるほどお忍びってことか」
察してくれて何より。
「齢百八十七にして、これほどの最上大業物を見る事が出来るなんて光栄も光栄」
納刀すれば、ここでもマラ・ケニタルへと深々と一礼。
「満足ですか」
「ああ! 俺っちがまだまだな存在だと痛感させられた。より良い物を作ろうって気持ちになる!」
高みを目指すという思考の持ち主は好感が持てる。
「目的の本筋から外れて悪かった。そこの美人さんの装備はどんなのにする? 動きやすいのが良いってことだから軽装だよな」
「ですね。軽装で頑丈なのがいいですね」
なんとも難しいことを言ってしまうが、
「お手頃となると革製防具とシュールコーだろうな。ダイヒレンの下翅で――」
「断る!」
速攻でお断りのベル。
素材として持ち帰ったデッカいゴキブリの死骸にキャアキャア言ってたしな。
絶対にベルはその装備だけは拒むだろう。
ダイヒレンの上翅と下翅は素材として優秀だからと、ギムロンとクラックリックが喜んで集めてたっけ……。
俺もそれに参加したな……。
「そうかい。新人から玄人にも人気の物なんだけどな。ならアジャイルセンチピードは」
「もっとこう、虫から離れたものはないだろうか。レギラスロウ殿」
悪気はなかったんだろうけど、このベルの発言を耳にして肩を落とすジージーが印象的だった……。
後でフォローしとこう。
「だったらエントの樹皮で作ったのはどうだい?」
「エント。確か南にいる巨人の種族」
「生ける木たちよ。そのエントの樹皮による防具はいいもんだぞ。ちなみに無理矢理に剥ぎ取ったとかじゃないからな」
――不必要になったエントの樹皮は剥がれ落ちるそうで、それを利用するという。
頑丈な木の巨人。
その巨人の樹皮から作られる防具は非常に優秀だという。
「今は瘴気のせいで南との付き合いがないからな……。残っているのを準備しよう」
と、レギラスロウ氏の声は暗い。
交流のあったエント族がいたんだろうが、瘴気によってどうなっているか分からないからだろうな。
南への浄化も始まっているから、彼らが無事であることを祈りたいし、協力者になってほしいから俺も会ってみたい。
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