PHASE-1113【静かに現れ、静かに去る】
巨木に背中を預けるネクレス氏。
追撃に出る俺――に対して樹上からの矢と魔法による攻撃。
足止めされる。
「本当にいい仲間ですね」
「じ、自慢だからな」
ヨロヨロとした足取りで巨木から背中を離すネクレス氏。
胸部は防具で守られているが、細身のエルフを守るには頼りなかった金属と革からなるハイブリッドのブレストプレート。
俺が見舞った蹴りの威力と衝撃を防ぐ事は難しかったようだ。
敏捷ではあるようだけど、打たれ弱いのは仕方ないか。
いままでの生活による食事は、空腹を誤魔化す程度のギリギリのものだったんだろうからな。
戦えるだけの装備は最低限そろっていても、食事による体作りを短期間で整えるのは無理だからね。
俺なんかの蹴りで軽く飛ばされるのがよい証拠。
掩護の最中に樹上からはしっかりとファーストエイドという言葉も聞こえてくる。
途端にふらついていた体が真っ直ぐとなるネクレス氏。
「さあ、俺達の連携を刮目して見よ!」
声まで元気になられて。
でもね――、
「なめんな」
「なに?」
「確かにダークエルフさん達の連携はいいものだけど、自分たちだけが連携をとれていると思わないことですよ」
周囲を見るネクレス氏。苦痛の表情からは解放されたが、今度は苦悶の表情に変わった。
幹に叩き付けられた時よりも歪んだものだった。
「俺の仲間だって最高に連携がとれている。でもって出来るだけ相手にするなって言ったところで対峙した時点でそれは無理というもの」
「……流石だな……」
「有り難うございます」
接近戦を仕掛けてきた連中は悉くが俺のメンバーに倒されていた。
大半がベルによるものだったようだけど。
相手にするなと言ってたけども、まずベルの動きに対してそれが出来ると思うことが失敗だ。
美姫という別称が耳に入っているなら、実力だってしっかりとその長い耳に入れておくべきだったな。
そっちが相手にしなくても、こちらに攻撃を仕掛けてくる以上、ベルはお宅等の相手をする。
俺への掩護はないけども……。
自分たちの敏捷さならベルを避けつつ他を攻撃できると思ったんだろうな。
その考えがダメダメ。
まあ、あまりにも強い存在ってのは理解の外だからな。
推し量る事が出来ないから強さを見誤る。
最適解は干戈を交えるのではなく、話し合いだったんだよな~。
「おのれ」
「ネクレス氏。確かにやり手のようだけど、戦いを始めるにはまだまだのコンディションですね」
「短命種にそんな風に言われるとはな……」
「降参してエリスの解放を」
「そう言われて素直に聞き入れるとでも?」
「思ってないですよ」
「ならば聞くな。そもそもここにだけ戦力を投入したと思わないことだ。集落に住む者たちは決して少なくはない。決死という気概を皆が抱いている」
――何を言いたいのか?
首を傾げれば、ネクレス氏が悪そうに口角を上げて俺に向けていた視線を別の方へと向ける。
視線の先は…………、
「……何処に向けられてんの?」
俺はこの辺の土地勘がないんだけど……。
「……そういったヌケたところも油断させるためのものか?」
「そんな訳ないでしょう。本当にヌケているのです」
――……コクリコめ! いちいち言わなくていいんだよ。目の前の相手に集中しとけ!
「いい仲間のようだ」
「じ、自慢の仲間だから……」
馬鹿にしたような言い方はやめてもらいたいね。
お互いの発言がさっきとは逆になったけども、俺のはなんとも弱々しい返しだったよ……。
だが――、
「あの小生意気なまな板がああいった余裕ある発言をするって事は、こっちが圧倒しているって事ですよ」
ダークエルフさん達だけでなくミストウルフも同様なのか、ベルが戦闘のために動けば、戦ってはいけないと本能で感じ取ったようで、唸るだけで戦闘には参加しようとしない。
相手側は完全にベルに呑まれてしまったな。
「で、何処に目を向けていたんです?」
「その方角は中心部です」
ルーシャンナルさんが代わりに答えてくれた。
なるほど――ね。
「本気ですか? 大々的に動いたところで無理ですよ」
数がいると言うけども、中心地の兵達の数には及ばない。この短期間の準備で侵攻なんてのはあり得ないだろう。
「ブラフだ」
自信を持って継いで返す。
「想像に任せる」
にゃろ~。こっちの自信を揺るがしてくる不敵な笑みだな。
ブラフじゃないなら今ごろダークエルフの進撃が始まっている可能性もある。
「だったらアンタを捕らえて攻撃を止めさせる」
「次期王がこっちの手にある限り交渉はこちらが圧倒的に有利。アレより重い首はこっちには無いからな」
「恩があるから危害は加えないんでしょ?」
「それは中央とお前たちの態度次第だろうな」
「とりあえずあんた達だけで――」
「ピィィィィィィ――」
だけでもって言わせてくれよ。後一文字だったのに……。
樹上からの指笛が俺とネクレス氏の会話を遮断すれば、唸るだけだったミストウルフ達が指笛に反応。
ネクレス氏の方へと近づけば霧へと変わる。
複数が重なり合えば濃霧となって視界を遮ってくる。
更に樹上からプロテクションと一人が発せば唱和に変わる。
濃霧に加えて俺たちの追撃を物理的に防ぐ為の障壁が顕現。
霧となったミストウルフ達を魔法から守る為でもあるんだろうね。
本当に連携がよく出来ている。
「集落へと進むか、中央へと大人しく戻り状況を話すかはお前たちが選べ。後者を勧める。王に敗北を受け入れさせるんだな」
霧がゆっくりと晴れれば、先ほどまで立っていた場にネクレス氏はいなかった。
周囲と樹上のダークエルフさん達も同様。
戦闘不能の面々もしっかりと回収したようだ。
で、言うだけ言って去って行きやがった。
現れる時も去る時も、音は立てずか――。
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