PHASE-645【コウモリはダンジョンの定番】

 ――ライノをホルスターにしまい、足早に進む二人の前に立ち前衛としての役割を担う俺。


「真っ直ぐと右の二手に分かれていますね」


「とりあえず地図を描きながら通路に目印をしとこう」

 コクリコがボールペンにて、方眼紙のような羊皮紙のマス目を塗りつぶし地図を描いていく。

 描いた後に真っ直ぐの通路にA-1、右側の通路にA-2と記入。

 異世界文字だけども、俺の脳にはその文字がAと数字に変換される。

 真似て俺が木炭を使用して、直進と右に続く通路に文字と数字を書く。


「まずはどちらから?」

 ビジョンを使用して確認。

 直進は結構な距離まで真っ直ぐに続いている。

 対して右は直ぐに行き止まり。で、道がいくつかに分かれていた。


「右から行って、各通路を調べてマッピングしようぜ」


「時間がかかりますね」


「それもダンジョンの醍醐味だろ。スキルや魔法でエコーロケーションなんかがあればいいのにな」


「有るわよ」

 エコーロケーションってまんまな名前の魔法があるそうだ。

 リンがそう言い、習得しているとも述べる。

 でもリンは俺たちに力を貸してくれない前提だからな。

 コクリコは――、うん。使えないよな。


「なんです?」


「お前もいろんな魔法をもっと使用出来るようにならないとな。って思ったんだよ」


「言われなくても分かっていますよ。トールもバンバンとうるさい飛び道具を撃つだけでなく、ファイヤーボールくらいは使えるようになってくださいね」

 分かってますよ。

 というか、ここでムキになって反論してこないとはな。

 自分を律する事が少しずつだけど、出来るようになってきているな。


「それに雷系も早く習得しないといけませんよ。貴男が代表のギルド名――知ってます?」


「……知ってますよ……」

 コイツ……。俺が気にしている事を……。

 雷帝の戦槌という名であるのに、そのトップである会頭。つまりは俺が雷系の魔法を使用出来ないってのは恥ずかしい。と、立ち上げた時に思っていたことだからな。

 いまだにファイヤーボールも使えないんだよな……。

 大魔法であるスプリームフォールは使えるんだけどね。

 まあ、実力じゃなくて、リズベッドの干渉によって習得したものだけどな……。


「ギルド名が泣いているわね~」

 追撃の新参者が悪そうに笑みを湛えてくる。


「追加するなら火龍装備も泣いていますよ。火龍の力の恩恵を受けながら、初期魔法であるファイヤーボールも使用出来ないんですから」

 やめて……。そこを言われるとなにも言い返せない。

 さっきから言い返すことが出来ずにいるけど……。

 というか、なに仲良く攻めてくるんだよ……。


「……善処します」


「善処ではなく、習得という発言を耳にしたかったですね」


「本当よね~」

 ――……本当に、仲がよろしい事で……。

 若干へこみつつ、俺が先頭に立って右側の通路をマッピング。

 枝分かれした部分も調べ上げていくと、通路は直ぐに行き止まりというのばかりだった。

 何も得るものは無かったけども、しっかりと地図と通路に番号を振っていく事はこなしていく。


「――――よし! 右側は全部潰したな」


「無駄骨でしたよ」


「こんなもんだって」

 ダンジョンあるあるだけど、侵入者に対して嫌がらせのような作りってのは通例だ。

 行っても何も無い。ただ時間を無駄にする。萎えさせる。


「で、萎えると警戒が散漫になって、罠やらバックアタックが――!?」

 むんずとコクリコの体を掴んで俺の方へと引っ張る。

 ここで――なんです!? なんて発せずに、何かあると判断して、引っ張られた体を反転させワンドを構える辺り、戦闘の経験値は高い。


「デッカいコウモリだな」


「エコーストライカーですね。ダンジョンに出没する中ではポピュラーな種類のモンスターです。意外とお肉が美味です」

 ポピュラーか。流石にスタート地点だとその程度だよな。最後のは聞こえなかったことにしとくけど。

 名前から察するに――、


「超音波を攻撃に転用可能なコウモリってところか」


「そうです」

 目に見えない衝撃で攻撃してくるそうだ。

 説明だけ聞けば凶悪そうだけども――――。

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