PHASE-176【モフモフ】

「さっさと制圧するか」

 相手は四人。気付き始めたなら、ちゃちゃっとすませようとゲッコーさん。

 無論と、ベルが首肯。

 

 二人が動くならばと、俺たちも戦闘態勢に移行した時、


「そこまでだ!」

 俺たちのいる地点から右隣より声が聞こえた。

 ゲッコーさんに負けず劣らずな渋い声だ。


「この声はゴロ太!」

 興奮するワックさん。

 どのみち戦闘開始だからいいけども、出来れば大声は出して欲しくなかったね。

 

 でもって、やはりと言うべきだな。

 予想どおりに渋い声だった。

 右を向けば、人間の大人よりもデカい子グマがいるって事でしょ?


「とう!」

 快活のいい声とともに、木の上から地面に向かって影が走る。

 木の上にいたんだな。

 にしても、影が小さかったような――――。


「で!?」

 ハンターの一人が顔を押さえて膝を付く。

 倒すことまでには至らなかったみたいだけど、やり手と思われるハンターの一人に攻撃を成功させるとは、


「なんだ、コイツは!」

 と、顔を押さえてのハンター。


「この悪党共め!」


「「「「はあ!?」」」」

 登場した存在に、俺たちとハンター達が素っ頓狂な声をあげてしまう。


「……なに……あれ?」

 すでに俺たちの存在にも気付いたハンター達だが、それよりも気になっているのは目の前の存在のようだ。

 代表して俺が口を開いた。


 テディベアのぬいぐるみみたいなのが、二足歩行でしっかりと立ち、ハードボイルドな声で、ヒーローみたいなポージングをしている。

 首元には赤いマフラーをした、体長50センチくらいの白毛の子グマ。


「かわいい……」

 ポツリとそう漏らしたのはベルだ。

 普段は凛としているが、もはや意外でも何でもない。

 乙女モードが発動してしまったようだ。


 ちっちゃくてモフモフな白い子グマが動いていれば、女性は誰しもときめくだろうな。


「その子を解放するんだ!」

 可愛さとはかけ離れた、渋い声。


「なんかややこしい事になっているが、どうする?」

 と、ハンターの一人が問えば、顔に一撃をくらったのが、


「人語を話す子グマだ! 飯の種になる」


「だな!」

 俺たちにはお構いなしに、ゴロ太に照準を定めるハンター達。


 下も下な選択をしてしまったな。

 ご愁傷様とだけは思ってやる――――。


「ふん!」

 一足飛びでハンター達の間合いに入れば、美しく白い髪が靡く。


 弦を引くことも出来ずに、レイピアの柄が腹部にめり込めば、それだけで一人は戦闘不能。


 顔面にダメージを受けていたリーダー格と思われるのが、次の標的となる。

 ベルの接近に気付いた時にはすでに手遅れ、長い足からのハイキックが側頭部に見舞われて、見舞われた反対方向の地面に勢いよく倒れ込む。


「ぐぬぬ……放せ!」

 ――……格好良く登場したゴロ太だったが、首のマフラーを掴まれて簡単に拘束されてるじゃないか……。


「おい逃げるぞ!」

 ベルの速攻によって、瞬時に二人が戦闘不能にされたのを目の当たりにした残りの二人が逃げの算段。


「逃がすわけがない」

 ベルの追撃の姿勢は、狩をする猛獣を思わせるような、身を低くしたもの。

 エメラルドグリーンの炯眼に睨まれれば、たじろいでしまうハンター達。


 が、流石に戦いの経験が豊富なのか、即座に意識を切り替える事が出来るようで、


「ちぃ!」

 舌打ちをしつつ、一人のハンターが懐から取り出した物を自らの足元に投げる。


「ええい!」

 悔しそうな声のベル。


「煙幕か」

 と、反対に冷静なゲッコーさん。

 相手の動向を窺ってから、


「追うぞ」

 誰よりも早く反応し、追跡。

 煙玉程度では、伝説の兵士を煙に巻くことは出来ないのだ。

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