PHASE-177【絶滅危惧種は守りましょう】

 ――――ゲッコーさんの後をついていけば、容易く追いつくっていうね。


「さっきもだったけど、本当に凄いね……」

 森での追跡では自分が一番と自負していたのだろうが、目の前の伝説の兵士の追跡術を目にしてしまえば、さすがのエルフも先ほどとは違い、感嘆が消え去って、自信を無くすかのような語気だけとなっている。


「なんで先回りされてんだよ」

 な! そこがゲッコーさんの凄いところなんだよ。

 知らない森でもこれだからね。

 当の本人は余裕の一服である。


「放してやれ」

 ずいっとベルが二人に立ちふさがる。


「いいじゃねえか! こんなご時世だと生活も大変なんだよ。少しくらい目をつぶってくれ」


「出来ないな。お前たちはご時世というのを言い訳にしているだけだ。辛くても懸命に生活を営んでいる人々は多い。そもそも冒険者でありながら、無辜の人々の為に行動せず、賊と行動している時点でお前たちに慈悲はない」

 お怒りの中佐は、ハンター達を許してやることは無いようだ。

 

 切っ先を向ければ、それに反応するようにコクリコがワンドを煌めかせ、シャルナが矢を番え弦を引く姿勢。

 女が強い時代なのかな?


「子グマと子猫を大人しく解放し、親猫の所に案内してもらうぞ」

 子猫て……。親猫て……。

 虎だろ。ティーガーなんだがら。


 ベルが間合いをゆっくりと詰めていく。

 追い詰められたハンター達はどうするかアイコンタクト。


「分け前をやるから」

 ここで、火に油を注ぐような発言をしてしまうところがいただけなかったな。


「絶滅の危機に瀕している生物を売買する行為だけでも許せんのに、片棒を担がせようとは」


「なんだよ絶滅って、関係ないだろう。ただのモンスターだぞ」


「トール! 乱獲は許せない行為だな」

 ここで俺に振るのかよ。

 とんでもないダイレクトパスだな。

 しかたねえな……。


「ケーニッヒス・ティーガーはレッドリストと扱うので狩猟は禁止だ」


「なんだよレッドリストって! 聞いたこともねえよそんな単語」

 まあ中世レベルだと、納得はしないよな。


「絶滅危機にある野生生物に分類されるって事だ。なので、諦めて解放しろ」

 煙草を吸い終えて携帯灰皿に吸い殻をしまいながら、ゲッコーさんが説明してやる。


「はあ?」

 それでも理解は出来ないようだ。

 時代が違いすぎるからな。

 中世レベルだと、狩はして当然だもんな。


「俺たちはこいつらを売りさばいて、それを元手に装備を調えて、王都のギルドで活躍するつもりなんだよ」


「そうだぞ! 魔王軍との戦いに参加するんだ! 魔王を倒すためなら、モンスターを狩っても問題ないだろう!」

 あの……、ハンター二人がそう発言した瞬間に、一斉に俺を見るはやめてもらえる。メンバーよ。

 俺がギルドの会頭だからって、視線を向けないように!

 

 困ったな。この世界にはこの世界のルールがある。

 絶滅は回避させたいが、だからといって俺の世界のルールを無理に押しつけてしまえば、それが是であるとして、ギルドメンバーが後々にはその思想を過激にしていく可能性も発生する。

 そうなったら、メンバーが異端審問官的なポジションになる可能性もあり得るよな。

【乱獲は火刑!】なんて言ってさ……。

 暗黒時代が到来しそうな予感ではあるが……、


「そもそもお宅らが捕らえたのは希少生物だ。種の保存を尊重しなければならないと、俺たちは考えている。なので、それで得た元手で俺のギルドに来られても、俺は迎えいれないよ」

 会頭らしく胸を張って言ってやれば、ベルはご満悦とばかりに頷いておられます。

 

 発言を耳にした二人は、ポカーンとしているけども。

 分かるよ。俺にはそんな威光がないんだろ。


 シャルナも、ゲッコーさんとベルから、俺を飛ばしてコクリコを勇者って言うくらいだったからな。

 ――……思い出してきたら腹立ってきた!


「何を言ってるんだその小僧は?」


「うるせえ! これを見ろ!」


「「な!?」」

 おう、いいリアクション有り難う。

 六花のマントは説得力がある。

 恐れ多くも先の副将軍のような、ひれ伏すくらいの絶大効果があれば尚良しなんだが。

 まったく意味が無い時もあるからな。このマント。

 意味が無いというか、俺に威厳が無いだけか……。

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