PHASE-175【ハンター職】

「確かにいるな」

 木の陰から覗き込む先頭の二人と合流してから一言。

 息切れもせずに動向を窺える俺って凄いと思うの。

 

 誰もそこを褒めてくれないから、脚力も含めて自分で自分を褒めていくスタイル。

 

 遅れて、コクリコとワックさん。

 

 コクリコは流石だが、ワックさんも息は上がっているが、それでもついてこれたのは凄い。

 というより、体力面では俺ってコクリコより上だな。

 未だに白戦では勝てる自信は無いけども。


「あいつらだね」

 至近でシャルナがこっちに顔を向けて語れば、動悸がやばい。

 息切れはしてなかったのに、エルフの美しさにあてられてバクバクだ。

 最早、芸術の域だな。


 紅潮を誤魔化すように、対象を再度確認。


 ――明らかに先ほどまでの山賊とは違う。

 洗練された装備だ。


 数は四人と、こちらよりも少ないが、場数を踏んでるって感じだな。

 金属製の胸当てに、生産性の高い弓とは違う、装飾の入った作り。


「山賊の仲間みたいだけど、違いすぎるな」


「多分だが、冒険者崩れだろう」

 と、ゲッコーさんは予想。

 さっきの山賊とは違い、隙が無いそうで、こちらには気付いていないけど、周辺への警戒に余念がないと褒めている。


 魔王軍に追い詰められた世界だからな。冒険者なんかより、悪事に手を染める方が楽して稼げるんだろう。


「まあ、やり手ではあるが――」

 ――俺たちの敵じゃない。と、心でゲッコーさんは呟いたんだろうな。


「ここからなら一足で行けます」


「流石だな」

 先頭の二人が余裕のあるやりとり。

 相手が手練れでも、二人からしたらアマチュアレベルか。


 ここで心配なのが空気を読まないコクリコなので、


「お前、迷惑かけたらマジで追放な」

 釘を刺す。


「わ、分かってますよ」

 焦ったな。

 こいつ……。俺が言ってなかったら、「この悪党ども!」なんて言いながら、間違いなく飛び出していたな。


「今回は最高の獲物だったな」

 おっと、山賊ハンター達が嬉々として語り出したよ。

 本来なら大金を得るんだろうが、貨幣に価値が無い現状だと、最高の食料と塒が手に入るって内容だった。

 

 ゴロ太がすでに捕獲されたのかもしれない。

 ハンター達のやりとりに、ワックさんの顔が蒼白になる。


 本来ならハンター職なんだから、狩をしても許されたりもするんだろうけども、この山では御法度のようだし、何よりゴロ太はちゃんと飼い主がいる。

 窃盗罪にて成敗させてもらおう。


「しかし、いきなり目の前に最高の獲物が飛び込んでくるなんてな。俺たちの運も開けてきたな」


「山賊どもとの行動も、今回で最後だな」

 話から察するに、やはりゲッコーさんの言うように冒険者崩れのようだな。

 でも悪い笑みは、山賊と変わらない。


 ベル風に例えるなら、クズはクズだ。


「本当に効果覿面だったな」


「!?」

 ハンターが屈んで直ぐに立ち上がれば、その手には生き物が掴まれていた。

 首部分を掴まれているのは、金色の毛並みをした、ついさっき俺たちも目にしたケーニッヒス・ティーガーの赤ちゃんだ。


 ワックさんの想像は見事に外れていた。

 ハンター達の話の流れから分かったことは、捕らえられたのはゴロ太ではなく、ケーニッヒス・ティーガー赤ちゃんを捕らえて、それを囮に、母親を捕獲したというものだ。


「クズはクズでしかない」

 本家をいただきました。

 白い髪をいまにも逆立てるかのようにお怒りだ。

 

 効率のいい狩の仕方と言えばそうだが、この状況でそれを口にすることは憚られるな。

 絶対にベルにしばかれるもの。

 この山では狩は御法度だしな。あいつらが悪い。


「――ん?」

 お~っと。流石はハンター職だ。

 ベルの憤怒の気配に気付いたのか、こっちに視線を向けて警戒してきた。

 

 やはり、やり手であるのは間違いないようだ。

 各々が弓に矢を番える。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る