PHASE-1262【ヨハン・クライフ氏の異名じゃないほう】
「今度も苛烈な旅となるのでしょうね」
「勇者である主が旅に出るというのは、そういう事です」
ですよね。
約二週間の時をここで過ごしたからな。羽を伸ばすには十分だったと思う。
そんな中でも訓練に励んだ俺の向上心に、俺自身が褒めて上げたい。
「嫌な顔を表情に貼り付けない辺り、主も今後への気構えが備わっているようですね」
「もちろんですとも。次はどういった事が待ち構えているのか」
「これから先は、ラッテンバウル要塞を超える戦いばかりとなるでしょう」
「おう、そうですよね!」
「快活よいですね」
「もちろんですとも! ラッテンバウル要塞以上の攻略ってのは、今後は当たり前になりますからね。ラッテンバウルをてっぺんだと考えていたら、ショゴスどころか
「素晴らしい気概! 私はよい主に恵まれました」
先生が感動と感心から立ち上がって俺へと歩み寄れば、両手をしっかりと掴んでくる。
そして称賛の言葉。
周囲も俺の発言を称えてくれれば、自分たちもやってやりますよ! と、活気ある声を俺へと届けてくれた。
ドッセン・バーグに至っては感涙である……。
どんだけ俺に心酔してんだよ……。
――……正直な話、俺のこの発言は空元気によるものだけどね。
こうでもして自分を追い込まないと次ぎに進めないからね。
自らを追い込むことで動こうと努力する俺って大した男だよね。と、ここでも心底で自賛させてもらいます。
「では、次の目的は――」
「無論、
救い出し、その力にて瘴気の浄化を行う。
これにより、こっちサイドの軍勢の活動拠点を拡大し、南伐へと打って出ることが可能となる。
「それで、俺達が次へと向かう場所は!」
自信に満ちた先生の表情に向かって、俺も自信を漲らせて問う。
「分かりません!」
「え~……」
自信ある表情で言い切らないでいただきたい。
こっちとしては次の行動に向けて、先生が最上の一手を打っていると思ったのに……。
それこそ
この天才様は……。
――――。
「と、いうことで、アルスン殿とガルム殿に足を運んでいただきました」
次の日の朝、ギルドハウス三階、俺の私室もある執務室には、俺のメインパーティーと先生。
これに加えて王城から足を運んでくれた二人。
ご足労に対して、代表で俺がお礼を述べ、
「翁、あいつ等はどうです?」
気になるので進捗も聞いてみる。
「中々の胆力を持っておりますな。面倒くさがるところもありますが、根は純粋なようで、恩ある勇者殿の為に励めと口にすれば、その発言に鼓舞されますからな」
俺を理由にすることで頑張ってくれるとはね。
ゴブリン達の心意気に、俺個人も鼓舞される。
「それで――、我々に残りの二龍の所在を聞きたいそうだな」
「あ、はい」
嬉しくなっているところでガルム氏が問うてくる。
俺が喜んでいるからと、ちょっと間を取ってからの発言という紳士の対応だった。
「まず一柱である、風龍アナクシメネス様は、
「という?」
「いかんせん深海都市だからな。実際に行ったことはない。何処に封じられているかは分からんが、ノチラートの何処かだそうだ」
「都市の何処かまで絞られているなら対処は難しくはないですね。海底全体となると頭を抱えてましたから。それで、深海都市はどの辺りにあるんです?」
「このカルディア大陸とレティアラ大陸の中間といったところだ。目印は海面へと噴き出ている瘴気だな」
両大陸の中央辺りの深海か。
RPGとかだとあるあるな場所だよな。
目印があるのも有り難い。
「海底への移動方法は?」
「バテン・カイトスが手段の一つだな」
ランシェルが以前に言っていた、潜水可能な大型ゴーレムの名前だったよな。
「となるとそれを鹵獲するといったところか」
ここでゲッコーさん。
「無理だな」
「だろうな」
ガルム氏の否定にゲッコーさんも直ぐさま返す。
理由として、基本バテン・カイトスはノチラートに係留されているということらしい。
目的地に係留されているならどうにもならんよな。
「内側からこちらへともたらす方法は?」
「それも無理だな。配下たちの
先生の質問にも否定が返ってくる。
「ならば別の手段の知恵をお願いします。バテン・カイトスが手段の一つならば、まだ残りの手段があるのでしょうから」
再度の先生の問いかけに、
「あるにはあるのだが――これも難しい」
「その理由は?」
木壁の時のように先生がガルム氏へと詰め寄って問えば、ここでもガルム氏が背を反らす。
「海にて死んでしまった死者を海底墓地へと運ぶという仕事を行う者がいるのだが――」
「その人物の力を借りればいいと?」
俺も先生と一緒にガルム氏へと詰め寄って質問。
「そうなんだがな……」
声音からしてよくない感じだな。
「続きをどうぞ」
よい結果でなくても聞かないといけない。
「その者は非常に臆病者でな。現魔王が台頭し、その力を恐れて仕事をほったらかして海を逃げ回っている。それで消息がつかめなくなってしまった」
「なるほど。バテン・カイトスも駄目。その人物の力を借りるのも現状では難しいわけですか……」
これには俺の声も暗いものになる。
「トール」
ゲッコーさんの手招きに応じれば、耳打ちをされる。
「潜水艦は?」
「潜水艦は――無いっす」
「そうか」
ゲッコーさんのゲームの世界でも、ストーリー内で潜水艦が出てくる場面はなかった。
加えて俺のゲームストレージデータにも戦車や戦艦はあっても、潜水艦が登場するゲームがあるのは記憶にない。
念のためにプレイギアを取り出して、湖なんかに向けて潜水艦と言ってみないといけないな。
「一応の確認はしときます」
「成功してくれればいいが」
「期待はしないでくださいね」
「了解だ」
と、二人でやり取りをする中、こちらのやり取りが一区切りしたのを見計らったところで、
「あの臆病者が逃げ回らなければ、こんな事で困ることもないんだが」
「魔王軍から逃げ回っているだけでも凄いですよね。それだけ足の速い乗り物って事なんですか?」
「ああ、船足の速さはこの世界で上位に入るだろう。それに加えて海中と海上で活動できるから捕捉するのが難しいんだ。
「船足って事は船ですよね?」
「そうだ。ガレオン船だ」
ガレオン船って聞くと五十メートルくらいある、大航海時代なんかで活躍した大きな軍戦をイメージしてしまう。
大航海時代で大きな船。海上と海中を行き来できるとか、映画で目にした――、
「フライング・ダッチマンみたい」
「な!?」
ん? 俺の発言にガルム氏がくわりと目を見開く。
普段の捕食者のような鋭い目からは想像できないくらいに見開いていた。
「なぜ知っているのだ」
「へ? なにを?」
「なにをとは、フライング・ダッチマンの事だ。いま説明していた船が正にそれだ」
――…………。
「「え!? あるの!?」」
驚きの声をゲッコーさんとシンクロさせ、そして顔を見合わせる。
ゲッコーさんは声同様に驚きの表情。きっと俺も同じような表情なんだろう。
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