PHASE-1502【感情が乗ってるよね】

「さて、次はいよいよ要塞内へとお邪魔するわけだが、相手はどう出ると思うね?」

 生徒会長を打擲したルインからの問いかけ。

 見た目で判断は出来ないけど、ルインの中でリーダー的な存在だと思われる。

 会話がなくても抜群の連携がとれるところからして、リンに代わってアンデッドの軍勢を束ねているんだろうな。


「こちらが少数だったからこそ、各拠点には最小限の軍勢を配置して対応してくるという手段をとっていたんでしょうが、五十の軍勢が突如として現れ、且つ今までの敗戦の報を耳にすれば、間違いなく要塞内部においては戦力を大量投入してくると考えていいでしょうね。増援も五十が最高とは考えないでしょうし」


「まず間違いないだろうな」

 それを少しでも軽減できる手段があるとするならば、俺とゲッコーさんプレゼンツによるへっぽこ剣舞。

 その剣舞による爆発を疑った生徒会長。

 爆発現場には少数しか向かわせられなかったけど、爆発近辺の者達と爆発の原因を探るために調査隊を編制してくれれば、数カ所で起こした爆発現場に一定数の兵を張り付かせることは出来るはず。

 そうなれば俺達に向けられる手勢を割くことも出来る。


 調査隊の編制となれば隅々まで確認が行われるだろうから、潜入して色々とやってくれているゲッコーさんの行動を妨げることになるのは申し訳なく思う。

 当人は気にするなと言って、ノリノリで爆発させてたけどね。


 ゲッコーさんの事だからまず見つかることはないだろうし、見つかったところで返り討ちにするだけ。

 個の武はベルに劣るとしても、それ以外になら負けることはない。

 以前だって難敵であったデスベアラーの関節を簡単に極めていたしな。

 派手に動き回って他を圧倒するベルとは違うけど、強さにおいてはなんの心配もない。


「相手方が兵の大量投入を実行してくるなら、こちらとしても有り難いことだな」


「ん?」

 ゲッコーさん事を考えている中でルインの発言を耳にすれば、俺は疑問符を浮かべる。

 何が有り難いのかは分からないが、声音からは怖いものを感じた。


「我らが主にディザスターナイトを召還してもらえばいい」


「なんて外道な発想だよ!」

 縛られた状態のラズヴァートから怒りの声が飛んでくる。


「戦いをしているのだ。外道も王道もない。勝利を手にするために様々な手札を用意するのは当然のことだろう」

 アンデッドだからなのか、精神に揺らぎのないルインは淡々とした語調で返していた。

 その寒々とした言い様に、ラズヴァートは押し黙ってしまう。


 ディザスターナイト――ね。

 以前にリンのダンジョンで、コクリコと共に戦った相手。

 固有能力であるインフェクション――だったよな。

 ディザスターナイトに命を奪われた者はゾンビ兵となって眷属になるって能力。

 多くの兵が投入される中でディザスターナイトが暴れれば、相手にとって非常に厄介な状況に陥るだろう。

 同胞をアンデッドにする画策を耳にすれば、ラズヴァートが怒るのも当たり前。


「勇者よ。我が一計も一つの手段として頭内に留めておいてほしい」


「却下ですよ却下」

 即答で返してやる。


「なぜかな?」


「いくら戦闘しているとはいえ、禁じ手を使用すれば相手も同等の手段に打って出ますからね。抑止力ってのは使わないから効果があるんですよ」


「だが、これからの戦いが大いに楽になる」


「楽になるって言ってもディザスターナイトの実力を考えると、この地にいる連中なら仲間がゾンビ兵になる前に対処してくると思いますよ。以前の俺とコクリコで倒せる程度なんですからね」


「上位陣は勇者と我々で当たれば良い。その間に並の兵達の命を奪って眷属にしていけば数の不利も緩和する」


「どう言おうが却下ですよ。勇者の戦い方じゃないです」


「アンデッドを使役することがか? ならば我らと行動するのはどうなのかな? それに以前、北の要塞ではディザスターナイトが活躍したはずだが?」

 なんて意地悪な言い方なんでしょう……。


「あの時は制限をしましたよ。王様が参加した戦いでアレを目立たさせる訳にはいきませんからね」

 精神に揺らぎのないアンデッドのはずなのに、目を瞑って会話をすれば、普通に人間と会話しているように思えてしまう。

 感情なく淡々と話すかと思えば、感情の乗った声音にもなるからな。


「ただ生者を惨たらしく殺して眷属にする。意思を持たずにひたすらに命令に従って殺していく者とは轡を並べることは出来ないです」


「今回は親征と言うわけではないのだから、気兼ねなく使役すればいいと思うのだが?」


「駄目です。俺が一緒に行動するのは、互いに意思疎通が可能な仲間だけにしたいですね。ラズヴァートが言うように外道な戦い方は避けたいです」


「どうしてもか」


「はい。外道ではなく王道にて挑むべきです。小僧の綺麗事だと思うでしょうが」


「我々を使役しておいて王道と吐くのは説得力に欠け――!?」


「うるさい!」

 俺とのやり取りの最中、リンがルインの頭部側面に思いっきり蹴りを入れた。

 痛みはないだろうが、眼窩に灯る緑光が激しく点灯していた。

 驚いたって感じだな。


「何をするのかな? 主よ」

 ズレた兜を戻しつつリンに問えば、


「王道を否定してはならない存在が、誤った発言をしそうになったから修正してあげたのよ」


「ぅっぬぅぅ……」

 言われれば、ルインが押し黙る。

 リンとの長い年月にわたる付き合い。

 リンの飄々とした言い様とは裏腹に、重みのある台詞だったようだ。


 だからなのだろうか、


「些か意地が悪すぎたな。勇者よ」

 と、言えば、


「平に伏して詫びよう」

 深々と頭を下げてくる。


「その所作を以てして、双方のひりつきは無いものとしましょう」

 ――……俺を押しのけ、頭を下げるルインの前でコクリコが腕を組んでの仁王立ちにてそう言えば、


「それは助かる」

 と、ルイン。

 纏っていた殺伐とした雰囲気が消え去った。

 場の状況を台無しと思うよりも、コクリコのこの行動はいつも通りではあるけども、場の雰囲気を和ませるには良いものだった。

 コクリコなりに気づかってくれたんだな。


「勇者との関係性を悪くするのは貴方方にとっても宜しくないでしょうからね。私という緩衝材にこれから先も感謝の心を持ち続けておくように」

 ――……うん。やはり気づかいではなく、自分本位の立ち居振る舞いだったか……。

 実際、悪い雰囲気がなくなったからいいけども。


「悪かったわね。ルインの中には性根が悪いのがいるのよ。貴男を試したかっただけだから気にしなくて良いわよ」

 珍しくリンがフォロー。

 性根が悪い。

 試す。

 ――ね。

 

 やっぱりルインやエルダーってのは、通常のアンデッドとは違って感情が乗ってるよな。

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